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オオカミ君とオオカミさん2

 用意していたかのように水やジュースを乗せたトレーを持ったウェイトレスがアリアのところにやってきた。

 水のグラスを受け取ったアリアは壁際でゆっくりと水を飲む。


 アリアに声をかけたそうにしていた男性も何人かいたけれどあえて目を合わせないようにしていたら撤退していった。

 トゥージュとクロードはまだ踊っている。


 アカデミーでもダンスのパートナーであるし二人の息は合っていると外から見ていても分かる。

 相手がいないなんて言っていたパメラも誘いがあったようでダンスをしていた。


 あたかもモテないようにパメラは思っているがそうではない。

 普通にパメラも可愛らしい顔をしている。


 スキャナーズという家柄もよく、パメラ自身の性格も明るくて男性相手にも分け隔てない。

 もちろんお近づきになれるのならと考えている人もいるのだ。


 しかしやはりパメラの祖父の存在が大きい。

 ここまで婚約がダメになってきた経緯もあるのでそうした背景を知る人だと手を出してこない。


 ただパメラにも悪いところがある。

 商人としての目を持つパメラは相手のこともよく見ている。


 ダメなところがあるのも人なのだがそんなところも見抜いてしまったりするのだ。


「うちの子はどうかしら?」


 そろそろただ壁際に立っているだけではお誘いをかわすのも難しくなってきたなとグラスを傾けた。

 カールソンには悪いけれどディージャンかユーラを誘ってもう一度ダンスを踊って疲れてますアピールでもしようと考えていた。


 アリアの様子をうかがっている男たちと目が合わないよう慎重にディージャンとユーラを探しているとエオソートが声をかけてきた。

 目を向けるとエオソートには年頃の息子がいるとは思えない若々しさがある。


 カールソンは全体的な雰囲気でいうと父親のギオイル似なのだがパーツパーツでよく見るとエオソートの特徴も受け継いでいる。


「どうとは?」


「ちゃんとあなたのことリードできてたかしら?」


「……まだまだですわ」


 ダンスが終わった後手のひらにキスをされたのは少しドキリとしたけれど上手いリードだったとは言いにくい。


「ふふ……でも頑張ってるから見てあげてほしいわ」


「イヤな感じにならなきゃ見て差し上げますわ」


「それでいいわ」


 エオソートは気取らないアリアに笑顔を向ける。

 息子のカールソンは大変だろうがアリアのこんな人間性も好ましく思う要素なのだからとエオソートは受け入れている。


「それで何か御用ですか?」

 

「あら、未来のお嫁さんに話しかけちゃいけない理由でも?」


「エオソート様?」


「お母様でもいいのよ?」


 アリアは困ったように笑う。

 エオソートが本気で言っているのか冗談で言っているのか判断できない。


 エオソートもアリアがカールソンと正式にお付き合いしている関係ではないことを知っている。

 けれどもエオソートは別に付き合ってもいいし、何なら付き合ってしまえという感じすらあった。


「私はあなたなら大歓迎よ」


 そう言うエオソートの目は優しく、本気の色を見せている。


「……光栄ですわ」


 認めていただくのは悪いことではない。

 カンバーレンド家なら良い家であるし、エオソートならばよくありがちな嫁姑問題も起きないだろうなんて思う。


 回帰前はエランと結婚して酷い目にあったのでそんな問題がなさそうという時点で他よりも良い印象である。

 今は結婚などを考えていないので言葉を濁すが、濁している時点で否定していないので肯定と近いのはエオソートも分かっている。


「まあ後は当人次第……あの子次第ね」


 否定しないのならそれでいい。

 エオソートは近くを通ったウェイトレスからワインのグラスを受け取ってアリアの横に並ぶ。


「フィランティスの件……あなたが関わってるのね?」


 アリアを見ずに正面を向きながらワインを傾ける。


「……どうしてお知りに?」


 フィランティスの件。

 つまりはケルフィリア教によって運び込まれた魔物と戦った事件のことである。


 しかしあの事件についてアリアの名前は出てこない。

 目立つことを嫌ったアリアのためにディアブロとアリアが戦ったことは秘匿されていた。


 アリアのみならずジェーンも存在を隠され、ヘカトケイについては名前を伏せられてオーラユーザーの協力者がいたことになっていた。

 なので事件のことを知っていてもおかしくないのだがアリアが関わっていると知っている人はほとんどいないのだ。


「バーズジュニア……彼は夫の後輩なの」


 フィランティスの警備隊長を任されているバーズジュニアはアリアたちと共にディアブロと戦ったオーラユーザーである。

 ギオイルとバーズジュニアはアカデミー時代の先輩後輩であった。


 しかも同じくユーケーンに所属していた。

 卒業後にオーラを発現させたバーズジュニアのためにカンバーレンドで抱えていたオーラユーザーの先生を紹介してあげたこともある。


「国防に関わることとして私たちにも事件について報告があったのよ。そしてバーズジュニアの方からも直接連絡があって……」


「話を漏らしてしまったのですか?」


「バーズジュニアを責めないであげて」


 アリアのことは絶対に秘密のはずだった。

 それなのに話を漏らしてしまうのはやってはいけないことである。


 たとえ恩があるカンバーレンド相手でもだ。

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