第三の男2
「う、わっぁ……」
パメラが思わず声を漏らした。
なぜなら声をかけてきた少年の顔がとても綺麗だったから。
アリアやパメラよりもいくらか幼そうに見えるのだが顔立ちが非常に整っている。
カールソンやノラは将来性も含めて男性としてカッコいい顔をしているが目の前の少年は現段階で完成された顔をしているとパメラは思った。
「久しぶりね、カイン」
「お久しぶりです、お姉様」
その少年はカインだった。
アリアに仕えるメイドのシェカルテの弟で以前オーラを上手く扱えずに死にかけていたところをアリアが治療した。
後にオーラを修練するための環境としてカンバーレンドに連れていって、以降カールソンと共に同じ師匠に師事してオーラと剣を鍛錬している。
相変わらずの顔をしているが身長はだいぶ伸びている。
コントロールできていないオーラのせいで体が細く弱くて儚さも感じることがあった。
しかし身長のみならず体つきそのものもがっしりとしてきて触れれば壊れてしまいそうな印象はなくなった。
顔の作りは大きく変わらないものの弱々しい印象がなくなって男っぽさも出てきながら優しくて柔らかい顔立ちになっていた。
「大きくなったわね」
「お姉様も……より美しくなられましたね」
「あら、口も上手くなったようね?」
激しく振られる尻尾が見えるようなカインの頭を撫でてやる。
目を細めて気持ちよさそうにするカインにはアリアも可愛らしさを感じる。
「お、お姉様って……アリア、弟がいたの?」
アリアに弟がいるとは聞いたことがないとトゥージュは思った。
エルダンではアリアの兄であるディージャンとユーラは有名であるが下に兄弟はいなかったはずである。
けれどアリアはお姉様と呼ばれてそのまま受け入れている。
むしろかなり親しそう。
「実弟ではありませんわ」
アリアはカインを撫でながら答える。
もちろんカインはアリアの弟ではないのだがアリアに助けられた恩からアリアのことを姉と慕うのだ。
「たまたまカインのためにしてあげたことがあって、そのために私のことを姉と呼んでくださるのですわ」
「そ、そうなんだ……」
「お姉様のお友達ですね。僕はカインと申します。よろしくお願いします」
背筋を伸ばして一礼するカインはちゃんと騎士としての教育も受けていることがうかがえる。
「どうしてそのカイン君がここに?」
実の弟でもなくアリアと関わりがある人なのになぜカンバーレンド家にいるのかパメラは疑問だった。
「今カインはカンバーレンドで見習い騎士として励んでいるのですわ」
「へぇ……」
「カインは優秀な子なんですわ」
「カンバーレンドで騎士になれるんだもんね」
カンバーレンドは誰でも入れるような家ではない。
そこで見習いでも騎士をやっているということだけでも才能を感じさせる。
「カイン!」
元気よくやっていることはわかった。
もう少し話でも聞いてみようと思っていたら中年の騎士が怒り顔でカインのところにやってきた。
「お前、仕事中に何をしている」
「あっ……」
「ご令嬢方失礼いたしました!」
カインは遊びに来ていたのではない。
騎士の仕事として会場の護衛に当たっていたのである。
普段ならカインに飛びかかって拳の一つでも落とすところだがパーティーの最中にそんなもの見せられない。
先輩騎士は青筋を浮かべながらアリアたちに頭を下げた。
カインの頭を押さえつけて一緒に頭を下げさせている。
たとえ知り合いだとしても仕事の最中に私用で声をかけるなど言語道断である。
「行くぞ! 後で説教だ!」
「あっ、ちょ! お、お姉様、お会いできて嬉しかったです!」
「ええ、また会いましょう」
引きずられるようにして連れていかれるカインにアリアはニッコリと笑って手を振る。
「……顔が広いね」
カールソンかノラかなんて考えていたけれど顔だけで考えるとそれに負けていない三人目の男が出てきた。
カインがアリアのことをかなり慕っていることは間違いない。
カールソンやノラに比べれば地位的には劣るけれどアリアがそんなことに頓着するとは思えない。
「年上、同い年、年下か……」
タイプも年齢も違う三人の男性。
「私も良い相手いないかな……」
アリアに何が勝ってるかパメラは考えた。
「胸なら?」
「どこを見ているんですか?」
「な、なんでもない!」
胸のサイズとこれからの期待なら勝てるかもしれない。
ただそこで勝っても虚しいだけだよなぁとパメラはアリアの胸に向けていた視線を誤魔化すようにさまよわせた。