ブルーアンドホワイト3
「残念ながら自分一人で強くなれる人なんて極一部、一握りの化け物だけですわ」
基本的にはどのような天才だってその才能を見出して伸ばしてくれる師匠がいる。
剣もオーラも一定以上になるとレベルも伸ばしにくくなるので指導してくれる人が必要である。
「僕は強くなりたいです……!」
「分かっていますわ。
ですからあなたに相応しい場所を見つけてあげたいと思います。
ですがそのためにはあなたも覚悟する必要がありますわ」
「覚悟……?」
「姉と離れて別の場所で他の人と暮らす覚悟はありますか?」
非常に酷なことを聞いていると思う。
「今私はあなたに相応しい場として考えているところがあるの。
でもその場所に行くときっと姉と離れてなかなか帰ることもできなくなると思われますわ」
しかし剣の道、オーラの道は決して容易いものではない。
優秀な師がついても努力するのは本人だ。
師匠が家に来て剣やオーラを教えてくれることなんてほとんど考えられない。
師匠の下で厳しい修行に耐えねばならないだろう。
姉の元を離れる覚悟、知らない環境に身を置く覚悟、辛い修行に耐える覚悟などどんなことにもめげない覚悟が必要になる。
せっかく体が回復して取り戻した日常を捨てろ。
まだまだ子供のカインにいきなり突きつけるには過酷な選択である。
同時にアリアはシェカルテにも目を向ける。
明るくなって元気になったカイン。
ようやく幸せになれる時が訪れたのだが弟の選択次第ではシェカルテも弟離れをしなくてはならなくなる。
シェカルテも言葉を発さない。
行ってほしくないという思いもある。
ただカインのためにどんな選択が良いのか頭の中をぐるぐると考えが回る。
メイドとして働くシェカルテだが経験豊かな大人ではない。
心のどこかで分かっていながらも急に突きつけられた現実に困惑を隠せなかった。
「……よく2人で話すといいですわ」
「お、お姉さん!」
「なんですの?」
「例え師匠となる人のところに行っても……戻ってくることはできますよね?」
「そうね。
人でなしじゃなきゃ休みもくれるでしょうし、教えを受けて終えて最後にどうするかは自分次第ですわ」
一生師匠のところにいるなんてことはない。
休みの日にはシェカルテのところに帰ってこれるだろう。
そして腕前が一定以上になって師匠に認められれば独り立ちすることになる。
しがらみはあるからどうなるかは分からないがそこから先にカインがどうするかは自分の意思によるところが大きい。
出来る限り味方に引き込みたいけれどもしカインにやりたいことがあるならそれは尊重してあげなきゃなとアリアは思った。
同時にいざとなったらシェカルテを利用して……なんてことも考えてはいるのだけど。
「どこにでも行きます。
誰にでも習います。
僕は……いや俺は強くなりたいです!」
「カイン……」
シェカルテはカインのこんな姿を初めて見た。
これまではオーラに蝕まれ、力なく笑い、迷惑をかけたくないと我慢をしてきたカインが強い意志を持ってやりたいと口にしている。
まだ体は小さく弱い子だけど心は強い子になろうとしている。
急に胸に熱いものが込み上がってきた。
シェカルテはグッと唇を結んで溢れそうになる涙を堪える。
「……カイン、あなたの好きにしなさい。
私はお嬢様にお仕えしています。
どこかに行くこともありません。
あなたの家は私が守るから」
「お姉ちゃん……」
カインが翼を広げて飛び立とうとしている。
どうしてそれを邪魔できようか。
シェカルテは堪えきれずに滲んだ涙を指で拭う。
「カイン、誰がなんと言おうとお姉ちゃんはあなたの味方だから」
そっとカインを抱きしめる。
「うん」
美しい姉と弟の絆。
ディージャンとユーラもこれぐらい素直に仲が良かったらなとアリアは小さくため息をつく。
「それでぼ……俺はどこに行ったら師匠に会えますか?」
ひとしきり抱き合ったカインとシェカルテ。
まるで別れを惜しむようだけど別に今すぐお別れでもない。
「それも確定な話ではないのですけどね。
とりあえず第一候補はカンバーレンドですわ」
「カンバーレンドって……」
「そう、あのカンバーレンドですわ」
先日シェカルテにカンバーレンドを調べるようにお願いした。
周りのメイドに話を聞いたりして調べてくれていた。
「ですがカンバーレンドの邸宅はこの町にはありません。
カインを会わせるにしてもどうやって……」
「そこは私の仕事ですわ。
上手く行けばカンバーレンド家にカインを紹介出来ると思いますわ。
そこで気に入られるかはカイン、あなた次第ですわ」
「俺、頑張るよ!」
「ひとまずカインとシェカルテはいつでも家を出発出来る準備をしておいてください」
カインを立派なオーラユーザーにするための関門は多い。
まずはアリアが一肌脱がねばならない。
「ダメだったら勝手にカンバーレンドに向かうから大丈夫ですわ」
本当に大丈夫か。
シェカルテは不敵に笑うアリアに不安を隠せないでいた。
「カッコいい……」
そしてカインはそんなアリアを目を輝かせて見ていたのであった。
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