第3の男1
「トゥージュ」
「アリア!」
アリアがクロードと共にいるトゥージュに声をかけた。
トゥージュはアリアを見ると満面の笑みを浮かべる。
こうした場では不安げな表情を浮かべていることも多かったトゥージュだが今日はクロードといるせいか不安そうな様子もなかった。
アリアと出会ってからトゥージュも少し性格が変わって明るくなったということもある。
手を広げて待っていると少し恥ずかしそうにしながらもトゥージュが飛び込むようにアリアを抱きしめる。
「おー、よしよし」
「もう、アリア? 子供扱いしないでください!」
アリアは受け止めたトゥージュの頭を撫でる。
トゥージュは顔を赤くしながらも撫でられることを拒否しようとはしない。
「クロードもお久しぶりです」
「ええ、エルダン嬢。トゥージュがお世話になっています」
「クロード〜」
それではトゥージュがいつもアリアに迷惑をかけているようではないか。
トゥージュが口を尖らせるとクロードはイタズラっぽく笑った。
相変わらず仲が良いようでいい。
「二人は仲が良くていいよねぇ」
アリアは微笑ましくトゥージュとクロードの様子を見ているがパメラは羨ましそうにしている。
「パメラにはそうしたお相手はいないのですか?」
パメラから浮いた話を聞いたことがない。
「まさか……」
「私たちを……?」
「そんなわけないでしょ!」
アリアとトゥージュが抱き合ったまま怖がるようなそぶりを見せる。
パメラも家柄は良く、婚約者がいてもおかしくない。
なのに男性について噂がないということは男性に興味がないのではないかということも考えられる。
もちろん冗談なのでパメラもふざけるように怒ってみせる。
ただほんの少しだけアリアが相手なら悪くないかもしれないとはパメラも思ったりはする。
「おじい様が認めないって……」
パメラにも何人か婚約者候補がいたことはあった。
しかしパメラの祖父であるガルダデイが良い顔をしないのである。
ボノロアが相手を探してきたりするのだけどガルダデイが草の根をかき分けてまでダメなところを探し出してきて向こう原因の破談にするのだ。
パメラだって良いなと思う人がいないわけではなかった。
なかなかガルダデイのお眼鏡にかなう人がいないのだ。
実は婿養子であるボノロアもスキャナーズの一員となる時には相当な苦労があった。
涼しい顔をして娘や孫を溺愛している人だったのである。
「……まあ気持ちは分かりますわ」
アリアも苦笑いを浮かべる。
カールソンと噂になっているから婚約などの目的で直接的にアリアに接触してくる人は少ない。
しかしエルダンもカンバーレンドも正式に婚約を発表したわけではない。
ダメ元なのか、アリアに対して婚約の打診やその前段階としての食事会などの申込みがいくつも来ている。
かなりめんどくさいことなのだけどアリアは婚約話に関してほとんど自分で処理を行なっていない。
なぜならゴラックがほとんどの婚約話をシャットアウトしてくれているからなのだ。
アリアとしては一々家名を確認してまともな人かどうか吟味するような手間が省けるのでありがたいがパメラと似たような状況ともいえる。
「でもアリアには……」
そう言ってパメラはカールソンのことを見た。
カールソンは友人と何やらワイワイと話している。
カールソンがワイワイしているというより友人の一人がヒートアップしているようにパメラには思えた。
アリアにはカールソンがいる。
婚約関係もお付き合いしていることもアリアは否定したけれどカールソンがアリアのことを見る目は優しい。
カールソンがふとアリアに甘い言葉をかけるのもパメラは目撃している。
アリアがどうであれカールソンはアリアに対して脈があることは確実であるのだ。
カールソンが相手ならゴラックでもガルダデイでも認めざるを得ないだろうなとパメラは少し目を細めた後にアリアに視線を戻す。
アリアでもガルダデイなら認めてくれそうな気がするとふと思う。
「それに第三王子のノラスティオ様もアリアと仲が良いよね?」
カールソンももちろんなのだがノラもアリアと距離が近いようなとトゥージュはアカデミーのことを思い出す。
人当たりが良く王子であることも相まって交流が広いノラはいつも周りに人がいる。
にも関わらずアリアを見つけるとアリアを優先して声をかけに来る。
一部の人は中立派であるエルダン家を取り入れるためだろうと考えるけれど、いつも軽快に人と話すノラがアリアの前で少し緊張したように固くなるのは好かれたいからだろう。
「…………」
「パメラ?」
やっぱりアリアは私と違うな、とパメラは悲しげな目でアリアのことを見る。
カールソンにしてもノラにしても将来安泰な超優良な相手である。
顔も良いし性格も良いし、アリアの能力の高さなら相手側に取り込まれるどころか取り込んで悠々と暮らしてしまいそう。
「カールソン様か……ノラスティオ様か……」
「お姉様!」
「えっ、お姉様?」
二人も良い男を選べるアリアが羨ましい。
自分ならどちらがいいだろうかなんてパメラが腕を組んで考えているとアリアたちに声をかけて近づいてくる少年がいた。