川を手に入れる2
呼び出した理由は話し合うため。
話し合いが話し合いのままに終わるか、脅迫の場になるかはデュスディニアス次第である。
アリアは要求した、忠誠を。
デュスディニアスがアリアに対して全ての忠誠を捧げて下につくことを求めたのである。
デュスディニアスが忠誠を誓うということはデュスディニアスが頭領でいる水賊ゲルフマンもアリアに従うということになる。
アリアはデュスディニアスだけでなく大河アシラストリマスにおける強い支配権の一部も手に入れようとしていた。
だがここまでの恩だけで下れとアリアも言っているのではない。
ちゃんとした交換条件もデュスディニアスに提示していた。
「本当に……アカデミーにサラを?」
「ええ、エルダンの名にかけて」
条件とはサラの保護である。
さらには保護の方法も魅力的なものを提示した。
エルダン家でサラを引き取ってアカデミーにまで通わせるというのだ。
こうすれば一年の半分は確実に安全な場所にもいられるし、デュスディニアスが望むようにサラを普通の子として育てられる。
むしろアカデミーに入れるなど普通の子以上の優遇だろう。
アリアとしてもデュスディニアスの手綱を握るためにサラを手元に置いておける。
アリアとデュスディニアスの利害が大きく一致する条件なのである。
「アカデミーの後はサラの選択にはなりますが彼女が望むなら仕事やエルダンの傍系や仕えている貴族の養子として結婚も斡旋いたしますわ」
「その代わりに俺が忠誠を誓えばいいのか?」
「それだけではなくゲルフマンには生まれ変わってもらいますわ」
「なに?」
「今は英雄視されているゲルフマンですが時が過ぎれば再び水賊として疎ましく思われることは必至。何かをするなら今が好機ですわ」
「……何をさせるつもりだ?」
「あなたが私のものになるというのなら教えて差し上げますわ」
ニコリと笑うアリアはとても年相応の少女には思えない。
ここまでアリアに導かれて問題を解決してきた。
アリアの提案には何かがあって最終的にはちゃんと目的がありデュスディニアスを使い捨ての駒にはしなかった。
「ひとつ先に聞かせてくれ」
「なんでしょう?」
「生まれ変わるってのは悪いことから足を洗うってことか?」
正直な話では将来の不安というものがあった。
いつまでも水賊の頭領としてやっていけるのかと考えた時に絶対的な保証などどこにもないどころか、いつか捕まるか死ぬのがオチである。
今回はサラの存在までバレて利用された。
生まれ変わっても悪事に手を染めねばならないのならアリアにはついていけないかもしれないとデュスディニアスは思った。
「もちろん多くの人の非難を受けることをさせるつもりはありませんわ。今までやっていたことに近いこともあるかもしれませんがそれだって真っ当な建前を用意すればいいのです」
「……どういうことだ?」
「まあ誰から見ても悪であることはさせませんということですわ」
「また難しい言い方をしやがる……」
デュスディニアスは顔をしかめて頭をかく。
「難しいことなんて何一つありませんわ。私に忠誠を誓うか、誓わないかです」
「……分かったよ」
デュスディニアスは席を立つとアリアの隣で膝をついた。
「小難しい作法はなしだ。それでいいな?」
「忠誠さえあればなんでもよろしくてよ」
「デュスディニアス・バナソードはアリア・エルダンに忠誠を誓う。これでいいか?」
「ええ、いいのですがお家名バナソードというのですか?」
「……昔捨てた名前だ。ずっと昔な」
照れ臭そうにアリアから顔を逸らしてデュスディニアスは立ち上がった。
「……後20若けりゃあんたに惚れてたよ」
「20歳若いデュスディニアスに会ってみたいものですわね」
「あの頃の俺はもう死んだ」
「そうですか」
こうしてアリアはデュスディニアスを自分の配下とし、その下にあるゲルフマンも手に入れた。
アリアがゲルフマンを手に入れたからには今後ケルフィリア教が川を使って魔物を輸送することもできなくさせてやる。
少しずつでも、ケルフィリア教の首を絞めていく。
オーラユーザーであるデュスディニアスという戦力も手に入った。
愚かな策によってアリアはより強くなり、ケルフィリア教は失敗した。
確実にケルフィリア教滅亡に近づいている。
ただ魔物を使うなんて、ケルフィリア教も過激さが出てきた。
だが絶対にケルフィリア教の好きにはさせない。
「……見ていなさい。何回でも邪魔をして差し上げますから」
ーーー第四章完結ーーー
ここまでお読みくださりありがとうございます!
これにて第四章完結となります!
想定よりも四章が長めになってしまいましたがお付き合いくださってありがとうございます。
アリアの物語はまだもう少し続きます。
もうちょっと恋愛成分を出しながら物語を続けていくので応援いただけると嬉しいです。
ここらで一つブクマや星入れてやるかって人がいたらぜひぜひよろしくお願いします!