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恐怖に打ち勝つということ

「……お嬢様は、怖くないのですか?」


 アリアとヘカトケイ、ジェーンは優雅にお茶を飲んでいた。

 正確にはアリアとヘカトケイはお茶を飲んでいてジェーンは緊張した顔でただ紅茶を眺めている。


 周りの住民が訳もわからず避難させられる中でお茶をしてもそんなもの喉を通らないとジェーンは思う。

 なのにヘカトケイのみならずアリアも何事もないかのようにお茶してるのだ。


「そうですわね……怖い気持ちがないかと聞かれるとありますわ」


「どうしてそんなに平然と……」


 ジェーンは怖かった。

 寝ている魔物はまだマシだったけれど、あんな人外の化け物と戦うのだと思うと手が震えてしまう。


「怖いのは当たり前ですわ。大切なのは恐怖心を感じないことでもそれに慣れることでもありませんわ」


 アリアはカップを置いてジェーンを見る。

 落ち着いているように見えていたけれどいざ戦いの時が迫ると不安に押しつぶされそうになっていた。


「大切なのはどのように克服するかですわ」


「克服、ですか?」


「そうですわ。自分の中の何を持って恐怖に打ち勝つか。元も勇気がある人もいるかもしれません。あるいは経験に裏打ちされた実力、誰かを守る覚悟、誰かに対する怒り……人それぞれでしょう」


「恐怖に打ち勝つ何か……」


「私は誰かを守りたい」


「お嬢様……」


「なんてことよりも怒りや憎しみですわ」


 ちょっと良い話かと思ったけどアリアは笑顔で怖いことを言った。


「こんなことをしでかしたのはケルフィリア教。魔物を使い、人を脅かそうなんて言語道断。クズのやることですわ。非常に怒りを感じます」


 恐怖は意外と強い。

 だからよりもっと大きなエネルギーで吹き飛ばさねばならない。


「そして元々私はケルフィリア教に恨みを持っていますわ。あいつらの企みを潰せるのだと思えば恐怖は私を止めるには足りません」


「……お嬢様らしいですね」


 ジェーンは堂々ととんでもないこと言い切るアリアに思わず笑ってしまった。

 自分よりも年下の子が怒りと恨みで恐怖に打ち勝っている。


 なんだかとても変で、なんだかとてもすごいことのように思えた。

 ジェーンは考えた自分の中に何があって、そして恐怖に打ち勝つことができるのかと。


 ケルフィリア教への怒りはある。

 これまでのことに加えて、アリアが言ったように魔物を使うなんて非道な手段を取ることにも怒りを覚える。


 ただそれだけでは恐怖を打ち勝つのに足りない。


「なぜ今自分がここにいるのか。どうして剣を持つ道を選んだのか。そうしたことも時には力になってくれるよ」


 今度はヘカトケイからのアドバイス。


「……私は」


 なぜここにいるのか。

 なぜ剣を持つのか。


 それはアリアが理由だ。

 ケルフィリア教への恨みもあるけれどケルフィリア教と戦うアリアを見て憧れのような感情を抱いた。


 女とか子供とか関係なく己の敵と全てをかけて戦うアリアと共に戦いと思わされてしまった。

 だからここにいる。


 ジェーンは震える自分の手を見つめた。

 女性らしくもなくタコができた手。


 でもそれを恥じることはない。


「……私は、お嬢様のために戦います」


 ジェーンがアリアの目をまっすぐに見つめる。

 握りしめた手はもう震えてなどいなかった。


「ふっふっ……女が惚れる女は本物だね」


 ヘカトケイは穏やかに笑う。

 同性が強く惹きつけられる魅力があるのは中々あることじゃない。


 しかしアリアの周りにはアリアという人に惹きつけられる人が集まっている。

 厳しい戦いになるかもしれない。


 なのにアリアがいれば勝てるのではないかとヘカトケイすら思ってしまう。


「ジェーン、少し何か食べておきなさい」


「……そうします」


 ジェーンはアリアに勧められてお茶請けとして出されていたクッキーを口に放り込む。


「ん……んく……」


 クッキーを食べて分かったのは自分の口がパサパサとしていること。

 慌てたように紅茶を含んでクッキーを喉に流し込んだ。


「それでいいのですわ。私は負けません。だからあなたも負けない」


「……はい! 必ずや魔物を退治してみせましょう!」

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