心強い味方1
「それで今町にいるオーラユーザーがご令嬢2人と水賊の頭領1人だというのか……」
フィランティスの警備隊長であるバーズジュニアは頭を抱えた。
魔物が貨物として運び込まれているというだけでも大事件である。
その上魔物の一体は2等級。
他にもオーラユーザーがいると聞いてきてみるといたのはまだ若いアリアとジェーン、加えて水賊であるデュスディニアスだった。
頭も抱えるというものである。
警備隊長からしてみれば水賊たちは敵であり、デュスディニアスを信用もできない。
ジェーンはアカデミーを卒業しているからまだギリギリ良いとしてもアリアに至っては子供である。
期待できるメンバーとはとても言えなかった。
「それでもやるしかありませんわ」
「しかし他の2人はともかく君のような子を……」
「今は1人でも戦力が必要ですわ」
流石にアリアほどの年齢の子を戦わせることにバーズジュニアは難色を示す。
けれどアリアにも騒ぎになってしまった責任の一端はある。
悪いのはケルフィリア教であるが、ここで被害者を出してケルフィリア教の好きにさせるつもりは毛頭ない。
「だが……」
「事態は一刻一秒を争いますわ」
アリアは真紅のオーラを解き放ち、バーズジュニアに向ける。
「むっ……」
全身を押さえつけられるようなオーラを感じてバーズジュニアは思わずうなる。
正直なところオーラだけでいうのならアリアは自信があった。
オーラを修練することは非常に難しく、よほど才能がない限りある程度のところで頭打ちになってしまう人がほとんどである。
アリアは今回の人生においてオーラを早いうちから覚醒した。
さらにはオーラに関してはなぜか回帰前に上がったレベルの分まで引き継いでもいる。
ヘカトケイというオーラの扱いに優れた師匠がいて、アカデミーではカールソンなどのオーラを使って練習できる相手がいる。
今ではジェーンもそばにいる。
オーラを伸ばしていく環境としてアリアほど恵まれた人物はいないと言ってもいい。
今アリアのオーラレベルは7となっている。
ジェーンが4、カールソンでも5なことを考えるとアリアのオーラに関する才能はずば抜けている。
魔法を練習しているということも関わっているのかもしれない。
何にしてもアリアが放つオーラは直接向けられていないデュスディニアスも驚くような力強さがあった。
「それに私をこのまま避難させるというのなら護衛であるジェーンも引き上げさせますわ」
「なに?」
「俺もアリアがいないのなら戦わない。逃げさせもらう」
「そんな……」
バーズジュニアが困ったように首を振る。
町一つ落とされることを引き換えに援軍を待って倒した方が確実かもしれない。
下手すると町一つどころでは済まない可能性もあるがここでアリアを戦わせないというのならジェーンを無駄死にさせることなんてしない。
「邪魔するよ」
「ど、どなたですか?」
「師匠!」
「ふふふ、久しぶりだねアリア。何だか面白いなってるようだね」
ガチャリとドアが開いて入ってきたのはヘカトケイであった。
今アリアたちがいるのは警備兵たちが仕事をするための詰所であり、どうしてこんなところにヘカトケイがいるのかとアリアとジェーンは驚いた。
「人に聞いてね。少し様子でもみるつもりだったけれど面白そうなことになっているし力が必要だろう?」
「失礼ですがどなたですか?」
「こちらはヘカトケイ。私の師匠でオーラユーザーですわ」
「なんと!」
バーズジュニアの顔が明るくなる。
ここに来てオーラユーザーが1人でも増えることの意味は大きい。
「それで状況は?」
「実は……」
アリアはヘカトケイに状況を説明する。
途中ケルフィリア教という言葉が聞こえてバーズジュニアはなんだそれはという顔をしたが、ヘカトケイ周りの温度が一気に下がって何も質問できなかった。
「それは大変な問題だね」
流石のヘカトケイといえど2等級の魔物は1人で倒せない。
倒す云々よりも前にどうやって捕まえたのだという疑問の方が大きいぐらいである。
「もっと寝ていてくれるのならこの町を見捨てるべきなんだけどね」
ディアブロと戦いたいのなら万全の準備が欲しい。
もう1日でも時間があるのなら無理にでも住民を避難させて町は捨て、もう何人かオーラユーザーを集めて安全に戦いたい。
ただいつ起きるか分からないとそうも言ってられない。
避難している最中の人にディアブロは襲いかかるだろう。
もしかしたら避難の列を辿って別の町にまで到達してしまう可能性もある。
「ここで倒すしかないね」
人の心がないのなら逃げていたところだ。
しかしここで大勢の人を見捨ててしまえばケルフィリア教と変わりがなくなってしまう。
「人数だけはいるけど……経験がないからねぇ」
5人もオーラユーザーがいれば倒せる可能性はある。
けれど問題なのはヘカトケイ以外魔物と戦った経験のないオーラユーザーであるということだ。
経験があるのとないのでは大きな違いがある。
「いや、俺は戦ったことがある」
「おやそうなのかい。それは心強いね」
未経験だろうと思っていたけれどデュスディニアスは魔物と戦った経験があると口にした。