年下のお姉様6
「くっ!」
男はとっさに剣を抜いてアリアの剣を防いだ。
奇しくも正しい判断。
もしそのままサラに手を伸ばしていたらアリアが操る剣が体を貫いていた。
「はっ!」
「チッ、なんだこれ!」
アリアが二本の指を立てた手を振ると弾き飛ばされた剣が再び男に向かって飛んでいく。
紅いオーラをまとった剣は誰も手に持っていないのに思いの外重たい衝撃を男に与えた。
それでもまだ軽い剣を男は弾き返し、剣はクルクルと飛んでいってアリアの手に戻ってきた。
「オー……」
「遅いですわ」
剣が飛んでくるということに気を取られていた。
アリアがオーラをまとっていることに気づいたのは剣が目の前に迫ってからだった。
「大丈夫ですか、サラ?」
防御しようとした剣ごと男のことを切り捨てる。
アリアは何事もなかったかのように振り返って床に転がるサラに笑顔を向けた。
口を塞ぐ布を取って手足を縛る縄を剣で切ってサラのことを解放する。
サラは縛られていたために赤くなっている手首をさすりながら呆けたようにアリアの顔を見上げている。
「どうかなさいましたか?」
何の言葉も発さないサラにアリアは首を傾げた。
顔に叩かれた跡があるのでショックでも受けているのだろうかとそっと頬に触れる。
「これでどうですか?」
治療はできないが少し苦痛を和らげることはできる。
アリアは魔法でサラの頬をほんのりと冷やす。
「冷たい……」
「ようやくお声が聞けましたね。私アリアと申します」
「わ、私はサラ」
「ええ、存じています。私はあなたのことを助けに来たのですわ」
「私を?」
「そうですわ。あなたのお父様にお願いされまして」
「お父さんが?」
目をパチクリとさせているサラは状況が理解できていない。
デュスディニアスが助けようとしてくれたことは分かるのだけど、どうして若い貴族令嬢が助けに来ることになったのかが分からなかった。
デュスディニアスはサラに自分の仕事を教えていなかった。
けれどある程度大きくなればサラもバカではないので父親の仕事というものを何となく察する。
少なくとも若い貴族令嬢と仲良くする仕事ではない。
それなのにアリアやジェーンだけでなく真面目そうな人たちまで助けに来てくれて、普段見るような柄の悪そうな人たちが1人もいないのである。
「立てますか?」
「はい……あの」
アリアの手を取って立ち上がったサラはアリアよりも背が高く、想像していたよりもお嬢様な雰囲気の見た目をしていた。
デュスディニアスの娘というからにはもっとワイルドな感じをイメージしていた。
「姉貴と……呼んでもいいですか?」
ただ中身はデュスディニアスに近かった。
「姉貴……」
「姉貴はやめてくださいまし」
「じゃあ姉御……」
「お姉様と」
サラの方が年上そうだけど敬意を払って呼ぶのは構わない。
けれど姉貴や姉御と呼ばれるのはなんだか違うなとアリアは思った。
「お姉様。アリアお姉様!」
サラは目をキラキラとさせてアリアのことを見つめている。
こんなことになって心に傷を負っていないか心配であったけれどもサラは思っていたよりも平気そうだった。
「それでは……ケルフィリア教に痛い目を見ていただきましょうか」
反撃の時。
デュスディニアスの手綱はアリアの手に渡った。
何をしようとしているのか知らないが好きにはさせない。
アリアが妖しく笑ったのを見てサラはより目を輝かせたのであった。