年下のお姉様5
「連れていって話を聞き出しなさい」
「はい、分かりました!」
まだ若いアリアに従うことに疑問を持っていた人も多かった。
しかしアリアの冷酷でためらいのない行動を見た後で文句を言う人はいなかった。
出血が多くてグッタリとしている神官が連れていかれる。
今はサラ優先であるがケルフィリア教が何を目論んでいてどんな計画を抱えているのか知る必要もある。
「こちらな階段があります!」
講壇の辺りを調べていた騎士が地下への階段が隠されているのを見つけた。
「私が先に」
ジェーンが先頭となって階段を降りていく。
地下の作りも教会と同じほどに古そうに見えた。
最初からケルフィリア教が使っていた教会であるのかどうかは今は分からないが最初から秘密の地下が作られた教会のようだ。
何をするためのところなのか、はなはだ疑問である。
降りてすぐ部屋ではなく通路が続いていた。
壁に松明は設置されているが火はついていないので真っ暗な地下通路をジェーンが松明で照らす。
「この先に誰かいますわ」
「……分かるんですか?」
声をひそめるアリアに合わせてジェーンも声をひそめる。
松明を突き出しても暗くてジェーンには先までは見通せないのにどうして人がいると分かるのかと首を傾げた。
「話し声がいたしますわ」
「は、話し声ですか?」
アリアに言われてジェーンも耳をすますが声は聞こえてこない。
「オーラを耳に集めてみてください」
「オーラをですか? やってみます」
オーラによる強化というのは何も力や速さといった身体能力だけを強くしてくれるものではない。
体の特定箇所にオーラを集中させることで特定の能力を一時的に強化することも可能なのだ。
暗くて見通しがきかないのなら視覚以外の情報で先を警戒するしかない。
アリアは耳にオーラを集めていた。
聴覚を強化して他の人よりも先の音を拾っていた。
ジェーンも耳にオーラを集中させてみる。
「はぁー……それにしても暇だ」
「しょうがないだろう。一回脱走しかけた娘だ、見張りは必要だ」
「早く外の作業終わらないかね。このうるさいガキもさっさと殺して終わりにすりゃあいいんだよ」
「……聞こえます」
オーラによって強化されたジェーンの聴覚が声を拾った。
地下通路の先で男が2人会話している。
こんなやり方もあるのかとジェーンは驚く。
「少しゆっくり進みましょう」
今のところ聞こえてくる声は2人だけ。
しかし話していないだけでまだ他にも人がいる可能性はある。
ひとまず人がいるということをアリアたちは分かっていて相手はまだアリアたちに気がついていないという有利な状況なことは間違いない。
アリアとジェーンは相手の会話を聞きながら進んでいく。
相手にバレないように静かに進むと光が漏れているのが見えてきた。
これ以上松明を持って近づくと相手にもバレてしまうので明かりを消して剣を抜く。
通路の先は部屋になっていた。
光が当たらない暗い場所からでは中の様子はうかがえない。
アリアは懐から紙を取り出すとささっと折り始めた。
ジェーンはまた鳥を作るのかと思ったら今度は細長いような形のものが出来上がった。
「蛇?」
「そうですわ」
アリアは紙で小さな蛇を作ったのである。
鳥でもいいのだけど鳥は羽ばたくとどうしても音が出てしまう。
屋外であるならほぼ気にならない程度の音なのだけど他に音が少ない室内ではどうしても目立ってしまう。
こうした時には鳥ではなく目立たない形にするのがいい。
アリアが紙の蛇を床に置いて魔力を流し込んで操る。
紙の蛇はシュルシュル動き出して部屋に向かっていく。
よほどめざとくない限り紙の蛇が部屋に入ってきたことになど気付けない。
アリアは紙の鳥でやったように紙の蛇を通して部屋の中の様子をうかがう。
「4人……」
声が聞こえていたのは2人だったが部屋の中にいたのは4人であった。
「1人はサラですわ」
手足を縛られて床に横たわる女の子が1人と剣を腰に差した男が3人。
アリアとジェーン、聖印騎士団もいるので人数的にも優位にあって制圧は難しくなさそう。
しかし位置的に1人の男がサラに近すぎる。
「一気に入って一気に制圧いたしましょう」
ただ離れるタイミングを待っている時間はない。
サラを人質に取られる前に制圧するしかない。
「いきますわよ。3……2……」
「ん、なんだこれ?」
男の1人が部屋の真ん中に移動してきた紙の蛇に気がついた。
「今ですわ!」
「うわっ!」
アリアがパチンと指を鳴らすと紙の蛇から炎が出て燃え上がる。
男たちが驚いている間にアリアは部屋に飛び込んだ。
「な、なんだ!?」
「グアッ!」
アリアと同時に飛び込んだジェーンが近くにいた男を切り捨てる。
「させませんわ!」
サラの近くにいた男の立ち直りは早かった。
アリアたちが何者かを確認する前に敵だということをまず察知してサラの方に視線を向けた。
剣を抜いて戦い始めるよりもサラを人質にしようとしている。
判断の速さは褒めるべきだが、今はそんな能力発揮してもらいたくはない。
アリアは槍のように手に持った剣を投げた。