年下のお姉様4
「おや、あまりお見かけしない方ですね」
アリアが教会に入ると紙の鳥を通じて見た神官の男がいた。
あたかも人の良さそうな笑みを浮かべ悪人には見えないが、こいつもケルフィリア教なことは間違いがない。
アリアの後ろにはジェーン。
神官はアリアのことを見たことがない貴族令嬢ぐらいにしか思っていない。
「告白したいことがあるのです」
「おや、そうですか。懺悔室をお使いになりますか?」
「いえ、この場で聞いていただけると嬉しいのです」
「え、ええ、構いませんが」
基本的に懺悔や告白といったものは人に聞かれない懺悔室で行われる。
しかし今はたまたま教会に人がいない。
他に聞かれる心配がないのなら懺悔室でなくても構わない。
狭い部屋が苦手な人もいるので稀にそうしたこともあると神官はすぐさま受け入れた。
「私、大きな怒りを抱えてしまいました」
胸の前で手を組んでアリアはゆっくりと歩き出す。
「怒りですか」
「はい。それも神に対して怒りを抱えてしまったのです」
「神に対してですか?」
「そうなのです」
歩みを進めるアリアはうつむき気味に神官の前に立つ。
「時としてそうしたこともあるでしょう。神は全てを見ておられますが全てのことに関わることはできません。いくら祈っても届かないように感じ、怒りを覚えることがあるかもしれません」
アリアの告白を聞いて神官が良いような言葉でアリアを慰めようとする。
「ですが神があなたを見捨てたわけではないのです。祈りなさい。きっと開けた道をお示しくださるでしょう」
くだらないなとアリアは思った。
いくら祈ったところで神は道を示してくれない。
助けてもくれない。
「ですがいくら祈っても神は私の願いを聞き受けてはくれないでしょう」
「……一体どのような願いを?」
「…………ケルフィリアとかいうクソみたいな神が滅びることが私の望みですわ」
「はっ?」
冷たく笑みを浮かべたアリアの言葉を聞いて神官は理解が追いつかなかった。
「……はっ? うわああああっ!」
アリアが言ったことを理解する前に神官の右足が消えた。
何もかも理解ができる前に鋭い痛みで神官は叫び声を上げた。
マントで隠れていて見えなかったがアリアもしっかりと剣を腰に差していた。
一瞬で剣を抜いて神官の足を切り落としたのである。
「あなた、一体何を……! うっ!」
「勘違いなさらないでくださいまし。質問するのはこちら。あなたにその権利はなくてよ」
地面に倒れ込んだ神官の胸を踏みつけるアリアの目は氷の冷たい。
「何が望みだ……」
「クソみたいなケルフィリア教の滅亡ですが、今日はそのために来たのではありません」
アリアの言葉に神官が不愉快そうに顔をしかめる。
こんな状況でもケルフィリア教を侮蔑するような言葉を吐かれると怒りを浮かべるのかとアリアはおかしさを覚える。
「サラはどちらにいらっしゃいますか?」
「くそっ……あのクソ野郎の差金か! どうやって我々がケルフィリア教だと……」
「お黙りなさい」
「ぐっ!」
「私の断りなくその口を開かないでください。一ついいことを教えて差し上げます。あなたにはまだ足が一本と腕が二本残っていますわ」
アリアは剣を神官の肩に押し当てた。
勝手にしゃべると手足を切り落とすという脅し。
まだ若い令嬢なのになんと冷たい目をするのだと神官は恐怖すら抱いて口を閉じる。
冗談だろうと言葉を発してみる気にもならない。
そもそも脅しの前に容赦なく足を切り飛ばされてもいるのだ。
「今一度お伺いいたします。サラはどちらですか?」
「……」
神官は答えない。
ならばとアリアはゆっくりと剣を振り上げる。
「……地下だ!」
振り下ろされた剣が腕を切り裂く寸前で神官は叫んだ。
「地下で捕らえている……」
「ウソではありませんね?」
「こんな状況でウソなんかつくもんか……」
「まあいいですわ。ウソだったらすぐに分かりますから。ジェーン」
「はい、お嬢様」
ジェーンが教会のドアを開けると武装した騎士たちが中に入ってくる。
「なんだと……お前ら、まさか……」
神官は入ってきた騎士たちを見て目を見開いた。
何人かの鎧に入っている紋章はケルフィリア教にとって忌々しいものであった。
「私聖印騎士団のアリアと申します」
「聖印騎士団! なぜ聖印騎士団が水賊と……」
「あなた方が手を出した相手が間違っていたのですわ」
「……あの水賊如きが聖印騎士団だとでもいうのか!」
神官は勘違いしている。
手を出してはまずい相手というのはアリアのことなのだが、デュスディニアスが聖印騎士団と歓迎があるかのように考えている。
しかしアリアは不敵に笑うだけで答えない。
「地下にはどちらから降りられるのですか?」
「聖印騎士団に答えることなど……」
「残りは腕一本、足一本ですわ」
「ああああっ!」
アリアは神官の腕を切り飛ばした。
恐ろしく冷徹で鋭い一撃。
神に怒りを抱えていると言っていたけれどウソではないのかもしれないとジェーンはアリアの冷酷さを見て思った。
「次は足がいいかしら? それとも腕かしら?」
「こ、講壇の下だ……」
「探してまいります!」
アリアが視線を向けると聖印騎士団の1人が講壇のあたりを見に行く。