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厄介な女は嫌いじゃない2

「まあでもみなさん頑張って食べましたから」


「あっ、ズルい!」


「何もズルくありませんわ」


 ちょっとは明るいご褒美でもなければ気分が暗くなってしまう。

 アリアは懐から小袋を取り出した。


 その中には山のようにあったお菓子の一部が入っていた。

 なんだかんだとアリアも甘いものは嫌いじゃない。


 口寂しくなった時のためにと持ち運べそうな物をいくつか持ってきていたのである。

 みんなで分けると少ししかないけど甘い物でも食べればちょっとは気分が違う。

 

「さて……」


 本来なら一眠りしたいところであるがアリアはともかくパメラとトゥージュがそこまで図太くはなれない。

 あまり時間が経って疲労が溜まってもいけないので行動に移すことにした。


「もし、誰かいますか?」


「なんだ?」


 ドアを叩いて声をかけると向こうから男の声で返事がある。


「あなた方の頭領とお話ししたいのですが」


「なんだと?」


 頭領とは当然デュスディニアスのことである。


「なぜデュスディニアス様を呼ばねばならない? 用があるなら俺に言え」


「んー、そういうわけにはいかないのですわ」


「チッ……ここまで大人しくしているからこっちも丁重に扱ってやってるんだ。わがままを言うのならこちらも相応の態度に出るぞ!」


「……分かりましたわ。でしたら伝言をお願いしたいのですが」


「伝言だと? ハァ……言ってみろ」


「“サラについて”とお伝えいただければ」


「サラ? だれだそれ?」


「お伝えいただければ分かるはずですわ。むしろお伝え忘れていたらデュスディニアス様はお怒りになられると思いますわ」


 パメラたち3人はヒヤヒヤしてアリアの行動を見ているが、アリアは冷静に堂々としている。


「伝えればきっと私に会いたくて仕方なくなるはずですわ」


「……伝えればいいんだな」


 小娘にいいように言われて伝言を伝えても怒られるかもしれないが、アリアが自信たっぷりに言うものだから本当に言わなきゃ怒られるのではないかと男は少しだけ思わされた。

 伝言を伝えるぐらいならひどく怒ることもないだろうと考えてとりあえずアリアの言う通りにすることにした。


「あとは……」


 ーーーーー


「おい!」


 ドアが蹴破られてバラバラになる。

 大きな音と声にトゥージュが驚いてビョンと跳ねた。


「伝言はどいつが……この状況はなんだ!」


「あら、思っていたよりも早かったですね」


 勢いよく部屋の中に入ってきたデュスディニアスは目を丸くした。

 前に来た時はアリアたち4人は床に座っていた。


 部屋の中にはほとんど物もなく閑散としていた。

 なのに今のアリアたちは椅子に座っている。


 4人全員が椅子に座っていて、さらにはテーブルまでいつの間にか部屋の中にあったのだ。


「なんであんなもの部屋に運んだ!」


「えっ、いや……それは」


 見張りの男がデュスディニアスに叱責されてしどろもどろになる。


「怒らないであげてください。私がお願いしたのです」


 アリアは伝言をお願いした後他のこともお願いした。

 ずっと床に座っているのはなかなか大変せめて椅子ぐらい欲しいと頼んだ。


 普通なら受け入れられないお願いだろう。

 ただのわがままに他ならず、聞く必要もないのだから。


 しかしアリアには弁舌や洗脳といったスキルがある。

 これらのスキルは習得するハードルが非常に高い。


 さらにはレベルを上げることも容易くない特殊なスキルである。

 その代わりスキルとして手に入れることができるとしっかりとした効果がある。


 ただの人がアリアの言葉を聞いているとふわりと騙されてしまう。

 流石にデュスディニアスに会わせろなんて無理な言葉は聞かせることはできないが、無理のない範囲のお願いぐらいならアリアは相手に言うことを聞かせられるのだ。


 椅子が欲しい、テーブルが欲しい。

 見張りの男は気がつけばそれぐらいならいいかと部屋に椅子やテーブルを運んでいた。


 だからなぜだと聞かれても答えようもない。


「今重要なことはそこではないでしょう? どうぞお座りください」


 アリアはテーブルを挟んで向かい側の席を手で示した。


「おい、ガキ! お前何を知っているのかとっとと話すんだ!」


 デュスディニアスは座ることなくアリアに近づいた。

 テーブルを殴りつけて険しい顔をアリアに向ける。


 けれどアリアはそんなことでは怯まない。


「これがサラを助ける最後のチャンスかもしれません。大人しく座るかどうかお決めなさってください。気に入らないのならもう何も言わずただ大人しくしていますわ」


 誘拐された状況であるが今会話の主導権を握り有利な立場にあるのはデュスディニアスではなくアリアの方なのだ。

 デュスディニアスはアリアが何を知っているのか知らなくて、アリアはデュスディニアスのことを知っている。


 どれだけ凄んでもアリアの方が有利なのだから引く必要はない。


「テメェ……何を知っている?」


 デュスディニアスが剣を抜いてアリアの首に突きつけた。

 動こうとしたジェーンをアリアは軽く手を上げて止める。


「首でも刎ねてみるとよろしいですが……その結果サラがどうなるでしょうか?」


 こんな言葉にも弁舌や洗脳は影響を与える。

 デュスディニアスは剣を突きつけられてもなお冷静なアリアに眉を寄せた。

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