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誘拐事件発生4

「少し外の様子を見てみましょうか」


「そんなことできるの?」


「ふふ、できちゃうのですわ」


 アリアは懐から折り畳まれた紙を取り出した。


「それを……どうするの?」


「見ていてください」


 折り畳まれた紙を丁寧に開く。

 ただ開いても紙は紙。


 アリアは紙を再び折り始める。

 今度は畳むようにではなく何かの形を作っていた。


「鳥さんですか?」


 他にすることもないので3人してアリアの手元を見つめていた。

 アリアが紙を折っていくとだんだんと何かの形を成してきた。


 完成する手前でトゥージュが鳥のような形をしていることに気がついた。

 まさしくアリアが作ったのは紙の鳥である。


「あとは……」


 アリアは紙の鳥を手のひらに乗せたまま倉庫の壁を見ていく。


「古そうな倉庫だしありそうな……あっ、ありましたわ」


「何があるの?」


「穴ですわ」


 パメラがアリアの後ろから壁を覗き込むと小さな穴が空いていた。

 古くて管理の悪い倉庫だとこうした穴が空いていることがある。


「わぁ……」


 アリアが穴に手を添えると、手のひらの紙の鳥が動き出して穴から外に飛んでいった。


「今のは……魔法ですか?」


「そうですわ」


 アリアがアルドルトの弟子であることはまだ一般には秘密である。

 そのためにトゥージュとパメラはアリアが魔法を使えるということは知らない。


「私魔法使いの弟子なのですわ」


「アリア……すごい!」


「魔法かぁ……私も授業取ってみようかな」


「意外とできると楽しいですわよ。さて、少し集中しますわ」


 ニコリと笑ったアリアは床に座って目をつぶり、飛ばした紙の鳥に意識を集中させた。

 鳥を作った紙もただの紙ではなく、特別に作られた魔力を含む紙でアリアは紙の鳥と意識を繋げる。


 周りの様子が見え始めて音も聞こえる。

 スパイするのに使えそうだからと物に意識を飛ばして周りの状況を確認する魔法をアリアは習得していた。


 紙の鳥を飛ばしながらなことはかなりの集中力と魔力のコントロールを必要としたが、役に立ちそうなことにアリアは努力を惜しまない。

 紙の鳥が舞い上がって倉庫を外から眺める。


「かなり古い倉庫……似たようなものが並んでおりますね」


 アリアはフィランティスの地形について明るくない。

 もしかしたらパメラがこの光景を見ていたらどこなのか分かったかもしれないが、アリアでは似たような倉庫が並んでいるだけにしか見えなかった。


 さらに紙の鳥を飛ばすと先ほど出ていったデュスディニアスの後ろ姿が見えた。

 何か分かるかもしれないとアリアはデュスディニアスを追いかける。


 見つかりにくい紙の鳥ではあるが見られれば明らかにおかしなものなので見つからないように距離を取る。


「むっ……」


 追いかけているとデュスディニアスが黒いローブの男と接触した。

 怪しい。


 そう思ったアリアは紙の鳥をより近づける。

 物陰に隠れるようにして二人の会話が聞こえそうな距離に寄る。


「それで、上手くいきそうか?」


 フードの男はしゃがれた声をしている。


「さあな。スキャナーズのお屋敷に人を行かせた。相手が交渉に乗ってくるかどうかさ」


「失敗したらどうなるのか分かってるんだろうな」


「チッ……テメェこそうちの娘に手ェ出してみろ。たとえ海の底に逃げたって見つけ出して殺してやるからな」


 デュスディニアスの体から濃いブルーのオーラが溢れ出した。

 アリアの紙の鳥の角度からでは横顔しか見えないが、フレンドリーな感じではなく怒りの表情を浮かべている。


「ふん、お前が仕事を成功させてくれればいいのさ」


 紙の鳥越しでもピリつくオーラなのにフードの男は気にする様子もなく鼻で笑う。


「娘……?」


 デュスディニアスの言葉がアリアには気になった。


「ただ少し港に荷物を下ろさせてもらえればいいのさ。ただ見られると厄介だから夜、検閲は無しでだ。スキャナーズならそれができる。言うことを聞かせろ」


「……汚い真似を」


「お前らのような賊に何を言われようと気にもならん」


「チッ!」


 少なくともデュスディニアスとローブの男の仲は良くなさそうだ。


「俺に仕事させたいならこんな風に一々会いにくるじゃねえよ」


「仕事の進歩が気になるものでな。お前も娘が無事か気になるだろう?」


「テメェ……」


「もちろん丁重に扱っている。仕事は早くするんだな」


「…………くそっ!」


 フードの男が立ち去って、デュスディニアスは苛立ちを近くにあった木箱にぶつけた。

 オーラをまとった蹴りで空の木箱はバラバラに砕け散る。


「サラ……待ってろ……」


 デュスディニアスは胸元からネックレスを引っ張り出す。

 ペンダントになっていて開くと中に小さな絵が入っている。


 可愛らしく笑う女の子の絵である。


「仕事終わったら覚えてろ……あいつら全員ぶっ殺してやるからな……」


 感情の高ぶりにオーラが激しく乱れている。

 アリアは何かの事情を察しつつフードの男の方が気になったのでフードの男を追いかけることにした。


 あれだけのオーラと殺気を向けられれば普通の人ならかなり苦しいだろう。

 なのにフードの男は平然としていた。


 只者ではない。

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