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誘拐事件発生1

 ちょっとお買い物したり、たまには自分たちでお菓子でも作ったりとダラダラ過ごしていた。

 たまにはこうしたことも悪くないなと思いながらもそろそろ帰るのに向けてお土産でも買っておかなきゃいけなくなった。


 ゴラックにはお酒でも買っていこうと思ってアリアたちは酒店を訪れていた。

 若い貴族令嬢にはふさわしくない場所であるがお店の方もそんな場所に来ているアリアたちの目的を素早く汲み取ってくれた。


 アリアはゴラックの好みのお酒を知っているのでさっさと買うものを決めてしまったが、トゥージュは何を買ったらいいのか分からないようだった。

 自分の父親がどんなお酒を好むかなんて普通は知らないのでしょうがない。


 アリアがトゥージュにヒアリングしながら良さそうなものをいくつか選んであげた。


「私もいつかはお酒飲むのかなぁ?」


「パメラは……強そうですね」


 次に別のお店に移動する馬車の中でパメラは一応両親へのプレゼントとして買ったお酒の瓶を眺める。

 今はお酒を飲みたいだなんてこれっぽっちも思わないけれど大人になるとお酒を嗜むような日が来るのだろうかと疑問に思う。


 アリアとしてはパメラはお酒飲みそうな方だと思った。

 先日食事を共にした時ボノロア、リデラーシュ、ガルダデイもお酒を飲んでいた。


 子供の前なので多くを飲んではいなかったが、弱い人ならば酔うぐらいには飲んでいた。

 けれど3人とも顔色一つ変わらなかったので家系的にお酒に弱くはないだろう。


 親がお酒を嗜むなら子供も嗜むことが多い。

 商家であれば良いお酒と接する機会も多いのでパメラはきっと飲む人だろうなとアリアは予想している。


「私はあんまり飲まないかな」


 逆にトゥージュはお酒に弱そう。

 話に聞いてみると父親もお酒に弱いらしい。


 お酒が好きで飲みはするのだけどすぐに顔が真っ赤になるらしい。

 母親の方も弱いらしいのでトゥージュも弱い可能性が高い。


 強かろうが弱かろうが自分の限界を見極めてほどほどに抑えて飲めば困ることはない。


「私はまだお酒の良さが分かりません……」


 公的にはお酒の飲める年齢のジェーンは肩をすくめた。

 騎士になったことでお酒を飲むこともあったのだけどその良さがまだ分からないでいた。


「きゃっ!」


「どうしたのですか!」


「急に人が飛び出してきまして……」


 急に馬車が止まって倒れかけたトゥージュをアリアが支えた。

 パメラが窓から顔を出して御者を見ると御者は困ったように振り返った。


 ローブを着た人がフラフラと馬車の前に出てきていた。

 足腰の弱いご老人なのかなとパメラは思った。


 時としてこうしたことはある。

 町中な以上全員が全員馬車を避けて歩いてくれるわけじゃなく、子供や老人が飛び出してくることも稀にある。


 護衛の騎士がローブの人に駆け寄った。

 こんな風に馬車の前に飛び出してしまうということは体調が悪いような可能性もあるから念のために確認しに行った。


「大丈夫ですか……なっ」


 駆け寄った騎士がローブの人を支えようと手を伸ばした瞬間、ローブの人は懐からナイフを取り出して騎士の腹を刺した。

 馬車から騎士が刺されたことは死角になっていて見えない。


 フラフラと騎士が後ずさって倒れた。


「襲撃だ!」


 直後近くの路地から剣を持った黒いローブの男たちが馬車に向かって飛び出してきた。


「お嬢様方を守るんだ!」


 一瞬で空気が緊迫する。

 騎士たちも剣を抜いて守るように馬車を囲む。


「な、なに!?」


「お嬢様、窓を閉じて中で大人しくしていてください!」


 倒れた騎士の腹部から血が流れていることをパメラは見てしまった。

 いかにパメラといえど血を見る機会などなく顔色が青くなっている。


「パメラ、下がりなさい」


 その中でもアリアは冷静さを保っていてパメラの肩を引いて席に座らせると窓を閉じた。

 程なくして金属がぶつかり合うような音が聞こえて、悲鳴や怒号のような声も響いてきた。


「大丈夫よ」


 怯えるトゥージュをアリアはそっと抱き締める。


「私も……」


「ジェーン、待って」


「ですが!」


「いいから」


 剣を手に飛び出そうとするジェーンをアリアが制した。

 こんな時のための護衛であるのになぜ止めるのかとアリアを見るが、アリアはどこまでも冷静な目でジェーンを見ている。


「……静かになったね」


 戦いの音が止んだ。

 勝ったのはどちらだろうかとパメラは恐怖が混じった目で馬車のドアを見た。


 ドアの取手がゆっくりと動く。


「よう、お嬢様方」


 パメラの顔がサッと絶望に歪む。

 馬車のドアを開けたのは黒い眼帯をつけた見知らぬ男だった。


 ジェーンは今にも眼帯の男に襲いかかりそうだったけれどアリアは目で制する。


「大人しくしてりゃ悪いようにはしねぇ。抵抗するなら外に転がってる騎士のようになるだけだ」


 チラリと地面に倒れる騎士の姿が見える。

 アリアはトゥージュの目を手で覆って死体が見えないようにする。


「……どうしたら宜しくて?」


「ふん、キモの座った嬢ちゃんだ。言っただろう大人しくしてりゃいいんだ」


 眼帯の男はニヤリと笑って馬車から離れる。

 他の男たちが馬車の中に入ってきてアリアたちの頭に麻袋をかぶせた。


「連れていけ。さっさとしねえと面倒なことになる」


 白昼堂々の誘拐事件。

 アリアたちは眼帯の男にさらわれたのであった。

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