お食事会2
「ただ何が目的だった口を割らなくてな……」
ボノロアは悩ましげにため息をついた。
目的のものが分かるならそれを重点的に調査して、警備の強化などができる。
だが捕らえられた犯人は何も口を割らず、何を狙っていたのか不明なのである。
だからこそ品物全ての点検が必要になってしまった。
捕まえた時には何も持っていなかったので盗まれてはいないだろうと考えていたが万が一どこかに隠しているなんてこともないわけじゃないからだ。
あるいはどこかに何か混入させた可能性もある。
「取引が遅れて損害が発生している。もしかしたら敵対している商会の差し金ということもあり得る」
いずれにしてもボノロアにできることは荷物をしっかりと点検して守ることだけ。
これ以上手出しさせないために警備もしっかりと強化した。
「最近は怪しい連中も多いからな」
「今時おじい様に近づいてくる怪しい人なんているんですか?」
「ああ、いるとも。うちの商会の名前で荷物を受け取ってくれないかという頼み事をしてきたやつが少し前にいたんだ」
今となっては歴戦の商人であるガルダデイにおかしな提案をしてくるものはほとんどいないが、スキャナーズの力を借りたくて接触してくる人は稀にいる。
「何もなければ自分の名前で荷物を受ければいいのにそうできない理由があるのだろう。金は払うと言っていたがそのような怪しい話に乗っかる馬鹿はいない」
昔はそうしたお願いもあった。
スキャナーズは大きな商会で信頼もある。
その名前を使って荷物を受け取れば検査なども緩く済む。
名前を貸せという脅しを受けたことも一度や二度ではないのである。
「何か禁制品でも持ち込もうとしているのでしょうか? 入ってくる品物の検査も強化するように言っておきましょう」
「そうしてくれ」
「おっと、仕事の話ばかりしてすまないね」
「ご家族のお食事に同席させていただいているのはこちらですから」
「ふふ、若いのに出来た子だね。パメラから頼もしいお友達の話は聞いているよ。カッコいい女の子の友達ができたと嬉しそうにしていた」
「お、お父様……」
パメラは恥ずかしそうに頬を染める。
「エルダンか……是非ともパメラと仲良くしてくれると私も嬉しいよ」
「もちろんですわ。パメラは大切な友達ですもの」
「恥ずかしいなぁ……もう」
「ヘヴィアナドさんのことも聞いているよ。頭が良くて手先の器用な……」
「一々私がなんて言ってたか言わなくてもいいからぁ!」
「えへへ……」
アリアだけでなくトゥージュのことも褒めていた。
それを聞いてトゥージュは照れ臭そうに笑っていた。
「はっはっはっ! ともかく娘の友人になってくれたこと、ありがとう。この町にいる間は何不自由なく過ごせるように配慮しよう」
「ありがとうございます」
「いいさ。なんなら買い物の請求もこちらにつけてくれて構わない」
「それはいけませんわ」
「ふむ、噂通りの子だな」
ボノロアが買い物の請求を受けるというと遠慮がちにでも受ける子が多い。
ある種の貴族なりの礼儀みたいなところもある。
招待主のお世話になっておくことが招待主を気遣い、受ける方も利益があるという関係になるのだ。
だがアリアはそれをキッパリ断った。
十分にもてなしてもらったしこれ以上恩義を受け取る必要はないと考えていた。
過分なもてなしだと感じたら辞退することも必要である。
買い物のお金も全部出してもらうなんてことはアリアにとっては行き過ぎなことだった。
「まあ何か困ったことがあったらいつでも言うといい。この町で解決できないことはスキャナーズにないから」
一見すると傲慢な言葉のように感じられるがそれほどまでにスキャナーズに自信を持っているのだろう。
実際この町に限って言えばスキャナーズの名前を出して解決できないことの方が少ないのである。
「それで……アカデミーでのパメラはどうだい? なかなか自分のことは話してくれないから気になっているんだ」
「そうですね、パメラは……」
アリアとトゥージュは一度顔を見合わせてアカデミーでのパメラのことを話し始めた。
ボノロアやリデラーシュの話も聞きながらワイワイと食事の時間を過ごした。
想像よりもみんな接しやすい人たちだなとアリアは思った。