今回の強者は私ですわ
どうやらエランは大人しくするように決めたみたいだった。
会長選挙の大敗からどうするのかと思っていたが誰かの入れ知恵なのか何もせずにひっそりと卒業することを選んだようだ。
単位取得もアリアが噂を流したので少し厳しくなっただろうから卒業に専念するのは賢明な判断である。
もしアカデミーを卒業すらできなかったらそれこそ恥である。
すっかり存在感のなくなったエランはどうでもいいとして代わりにエリシアが余計にアリアに突っかかってくるようになった。
わざとぶつかってきてフラフラと倒れ込んでは泣いてみたり酷いことを言われたと少し声を大きくしてみたりとアリアを悪者にしようと躍起になった。
回帰前はこんな手段にアリアはやられた。
慌てたように小さく謝罪したアリア周りから見て悪いように見られて、段々とエリシアをいじめているなんて話まで出るようになったのだ。
だがそれは回帰前のこと。
ただ情けなくされるがままになっていたアリア・エルダンはもう処刑されて死んでしまった。
さらに回帰前はエランがエリシアの肩を持ってアリアのことを非難した。
だからこそかなり立場も悪くなったのだけど今回はエランお得意の王城でもなければエラン自身もエリシアの見方をして出張ってくることはない。
援護もないエリシアにアリアがキッパリと物を言えばむしろ悪く見えるのはエリシアの方だった。
「あなたの方からぶつかってきたのではありませんか」
「そんな……私は……」
「アリア、大丈夫?」
「大丈夫ですわ、ノラ様」
回帰前にアリアの味方は少なかった。
どれもこれも消極的なアリアとエリシアの画策があったのだろうが今回はアリアにも味方がたくさんいる。
ぶつかってきて、わざとらしくエリシアは倒れた。
アリアもふらついたのだけど鍛えているアリアはそんなことぐらいでは倒れない。
けれど倒れたエリシアよりもアリアを心配してくれる人が周りにはいる。
今はノラがサッとアリアを支えてくれた。
せめて時と場所を選べばいいものをエリシアもアリアに対する嫉妬で視野が狭くなっている。
「まだだよ……」
「勝利の女神に食ってかかってんな」
倒れたエリシアを心配するのは取り巻きのみ。
アリアを困らせようとするバリエーションも少なくてまたやってるよとエリシアは周りにヒソヒソと笑われている。
「……ッ!」
エリシアは取り巻きの女子の手を払うと顔を真っ赤にして教室を去っていく。
勝利の女神とはアリアのことでユレストがそんな風にアリアを呼ぶから一部でそんな風に呼ばれているのである。
恥ずかしいからやめてほしいとアリアは思う。
「なにあれー! 態度悪〜!」
パメラが去っていくエリシアを見て顔をしかめる。
「まあ彼女も色々大変なのでしょう」
しかしアリアは余裕の態度を崩さない。
今はみんなもいてくれるのでエリシアによるダメージは一切ない。
やろうと思えばエリシアのことを完膚なきまでに叩き潰すことはできる。
だがアリアはあえてエリシアのことを泳がせていた。
エリシアは間違いなくどこかでケルフィリア教と関わりを持つ。
そして黒いオーラのゲルダもケルフィリア教としてエリシアの周りに現れるはずなのだ。
ここでエリシアを潰してしまうとゲルダが現れない可能性が出てきてしまうのでほどほどに反撃しておく。
困れば困るほどエリシアはケルフィリア教に依存するはず。
エリシアはケルフィリア教を釣り上げて一網打尽にするためのエサなのである。
しかしケルフィリア教は未だに鳴りを潜めたままだった。
「しばらくアカデミーは平和そうですわね」
エランは沈黙し、エリシアももはや脅威ではない。
回帰前は苦痛で仕方がなかったアカデミーであるが、今回は悠々と過ごすことができそうであった。