知者よ、アリアのために
ユレストが生徒会長になって新たな生徒会が組織された。
生徒会長以外の生徒会のメンバーは生徒会長に権限がある。
そのために生徒会長が必要だと思う人をスカウトしたり、生徒会入りを望む人の中から選ぶ。
つまりはユレストに残りの生徒会のメンバーを選ぶ権限があるのだ。
ユレストは立候補した人の中から能力がありそうな人を数人選んで生徒会に入れた。
さらにはユレストを支援したノラも生徒会入りを果たした。
縁故だけではなくノラがちゃんと頭も良い人であるところをユレストは見ていてくれていた。
そして会長選挙に落選したエランは怒りを抱えながらもプライドを捨てられなかった。
後々のことを考えればユレストに頭を下げてでも生徒会に入って活動した実績を作るべきだったのだが、プライドが邪魔をしてエランは生徒会入りを断念した。
頭を下げたところでエランの能力ではユレストは許可しなかった可能性もある。
「ぜひ生徒会に入ってはくださいませんか?」
「顔を上げてくださいませ……」
アリアは膝をついて頭を下げるユレストに困惑している。
忙しく会長としての仕事を始めていたユレストに呼び出されたアリア。
ユレストが借りた会議室にはノラとユレストがいた。
会議室に入るなりユレストはアリアに対して片膝をついたのである。
何かと思えばユレストはアリアに生徒会に入ってほしいようであった。
ユレストが会長になった立役者。
支持を表明してくれただけではない。
会長選挙を戦い抜くための知恵、支持者の懐柔、さらには裏における情報戦までその全てアリアがやってくれた。
会長選挙の最中は忙しくてそのことになかなか気づけないでいたのだが、全てが終わって振り返ってみた時に何もかもがアリアの手のひらの上で踊らされていたのだとユレストは気がついた。
だがそれに不快感はなかった。
むしろユレストはアリアという人をより知りたくなった。
憧れを抱いた。
会長選挙を戦ってみて分かった。
ユレストには物を考える頭もそれを実現しようとする勇気もあるけれど、頂点に立つべきような器の人ではないと。
部下を持つような立場になっても主君として君臨すべき人物ではないと自身で痛感した。
そして何もかもを自分で進めるのではなく、強い意思を持つ人を支えるべきなのかもしれないと思ったのだ。
その相手がアリアなのだとユレストは確信した。
「僕よりも、アリアさんの方が会長にふさわしいと思います。望まれるなら会長の座もお譲りします」
「そのようなこと望みませんわ」
「どうか、生徒会に。僕にあなたに仕える栄誉をください」
ユレストは騎士の気持ちが分からなかった。
自ら剣を取って戦えばそれでいいのになぜ上に忠誠を誓うのか。
心から誰かに仕えたいと思える人に会えることが幸福なことだと言う人までいてユレストには到底理解できない話だと思っていた。
しかし今はそんな騎士に頭を下げて謝りたい気持ちだった。
圧倒的なカリスマの前にはそれを支えていきたいという思いが湧き起こり、仕えたい人に出会えたことにこんなに胸が高鳴るものだと初めて分かった。
「うーん……」
アリアは珍しく困っていた。
生徒会に入って支えることになるのは生徒会のメンバーであるアリアなのにユレストはアリアを支えるのだと言う。
生徒会に入るということはアリアの考えにはなかった。
入って損をするものではないけれど授業に加えてヘカトケイやアルドルトとの修行があるのでアリアの余裕も少ないのだ。
「私は生徒会には入れませんわ」
「どうして!」
「私は私のやらねばならないことがありますわ。ユレストさん、あなたが生徒会でやらねばならないことがあるように」
色々考えてみたけれどやはり生徒会に入ってしまうと流石のアリアでもパンクしてしまう。
生徒会に入って得られる利益が忙しさを上回らないのなら生徒会には入らない。
お誘いは嬉しいが、無理をするのが1番いけないのである。
「私が生徒会に入ってもできることは少ないのですわ」
「ですが……僕はどうやってアリアさんに恩を返せば……」
やはり頭が固いなとアリアは笑う。
でも真っ直ぐに向き合った結果なのだから悪くはない。
「ならばお願いしたいことがあります」
「……! なんでしょうか!」
「ノラ様をお願いいたします」
「ぼ、僕?」
また手でも取るつもりなら止めるつもりで怖い顔をしていたノラが急に名前を呼ばれて驚く。
「ここだけの話、私はエランが嫌いです。彼がこの先王になるようなことは耐えられませんわ」
ケルフィリア教にいいように操られる愚鈍な王などいらない。
頭も微妙だし性格も悪い浮気男であるのでただ血筋だけの男である。
「ノラ様のような他者を思いやれる人が王になるべきなのです」
ノラは最後までアリアのことを見捨てようとはしなかった。
アリアが汚れた魔女だと言われてもノラだけはそんな噂に惑わされずにアリアを人としてみてくれた。
「私のためにノラ様を王にしてくださいませんか?」
アリアはユレストの頬に手を添えた。
妖しく笑うアリアの顔にユレストは胸の高鳴りを抑えられない。
「あなたがノラ様を支えてあげてほしいのです」
この感情は例えるなら恋なのかもしれない。
他の人が聞いていたのならかなり危ない会話。
「ユレスト」
「は、はい……」
「恩を感じるのなら私のために働いてくださるかしら?」
声が耳ではなく頭の芯に染み渡っていく。
「お任せください。ただいまより、このユレスト、ノラスティオ様にお仕えします。ただ忠誠はアリア様に」
ノラにも仲間が必要だ。
回帰前にノラは勢力が足りなくてなかなか力を伸ばせなかった。
最終的にはエランがケルフィリア教に堕ちたことでアリアの死刑前の叫びによってノラに反撃の芽が生まれたようであるが、そのまま行けばエランが王位についていたことだろう。
ライバルとなるエランを叩き潰すだけでなくノラを王としてケルフィリア教を潰すためにノラの周りに力を集める必要がある。
「アリア……」
ノラは自分のことを考えてくれるアリアに感動していた。
ブレない強い女性なだけでなく、未来を見据えて行動できる。
ユレストだってジェーンのようにエルダンに引き込むことができるはずなのにアリアはノラに仕えろと言った。
あまり王位に興味はなかったノラであるけれど、アリアが王位を望むならと少しだけノラも考え始めたのであった。
『弁舌のレベルが上がりました。
弁舌レベル2→3』
『洗脳のレベルが上がりました。
洗脳レベル4→5』
全くもって神様も人が悪い。
単にお願いしただけなのに、これを洗脳だなんてとアリアは思った。