ざまあみろ浮気者
会長選挙も終盤に差し掛かった。
演説をするユレストをバカにしていた貴族たちも日を追うごとに話を聞く人が増えていくと段々と流れが変わってきたことを感じ始めた。
もう流れは変わってしまった。
しかし今更くだらないと見下していた演説行為をするわけにもいかず手をこまねいていた。
候補者の中で唯一パメラも推していた商人の生徒がユレストをマネして演説を始めた。
けれどここで予想外のことが起きた。
もはやユレストに勝てないと察した商人の候補者がユレストを支持するような演説をし始めた。
ユレストの主張の中に商人の候補者と近い考えのものがあって、向こうから会長選挙で後押しする代わりに会長になったら自分の主張を採用してほしいと持ちかけてきたのだ。
ユレストはこっそりと話し合いをして商人の候補者の意見も取り入れ、商人の候補者は演説の中でもユレストに誘導するような方向で演説をし始めた。
口が上手いので最初から演説という手段を取っていたら商人の候補者も分からなかったなとアリアは思う。
「結果を発表する」
そして会長選挙の投票の日が訪れた。
正直どこまでユレストが喰らいつけたのか分からない。
話を聞く人は多くなったけれどもどれだけの人がユレストに実際投票してくれるかは結果を見てみないことには何も言えないのだ。
全ての投票が終わって講堂に人が集まっている。
講堂の最前列にはエランとエリシアが陣取っている。
エランたちはユレストの集客力に危機感を覚えつつもやはり自分たちが勝つと信じて疑わない。
自分が会長になる瞬間を最前列で待ちわびている。
講堂のステージにはアルドルトが上がり、魔法で講堂全体に声が聞こえるようにしていた。
「今年の生徒会会長は……」
アルドルトは生徒たちがざわついていても気にしないので普段アルドルトが話している時は少し賑やかなのであるが、今回はピンと張り詰めたような静けさが講堂を包み込む。
「ユレスト・アルケマイン! アカデミーの未来を担う若者よ、会長として1年間頼むぞ!」
「ウソだ!」
会長に選ばれたのはユレストだった。
珍しく緊張したように青い顔をしていたユレストは自分の名前が呼ばれて顔を上げた。
そして自分の名前が呼ばれると思っていたエランはユレストの名前が呼ばれたことを受け入れられず立ち上がった。
「何かの間違いだ! 僕が負けるはずがない!」
「下がりなさい。選挙の結果は公正だ」
エランがステージに上がってアルドルトに詰め寄る。
しかしアルドルトは冷たい目をしてエランに下がるように言う。
「そんなはずはない! 何か……何か不正をしたんだ!」
信じられないとエランは青い顔をして食い下がる。
「不正などない。公正な選挙の結果を疑うとは何事だ」
「うるさい! 僕は……僕は負けるわけには……」
王族が会長選挙で負けた。
このことがどれだけの意味を持つか。
「いい加減になさい! 君はここにいるにふさわしくないのだ」
「待っ……」
アルドルトが杖を振るとエランがシュンと消えた。
アルドルトの魔法によって別の場所に飛ばされたのであった。
大人しく引き下がればいいものをステージに上がってアルドルトに詰め寄るなんて余計な恥を晒した。
アリアはそれを見て笑いが抑えられなかった。
けれどそれを見てエランのことを笑っているのだと思う人はいない。
「お立ちになってください、会長」
ステージに上がるべきはエランではなくユレストなのである。
アリアはユレストの支持者としてユレストのそばにいた。
だから笑顔を浮かべていてもそれはユレストの当選を喜んでいるように見えるのである。
アリアに声をかけられてユレストはゆっくりとアリアのことを見た。
「あなたが会長ですわ」
「……アリアさん!」
「ユレストさん……」
ようやくユレストの理解が追いついた。
その瞬間喜びが爆発してユレストはアリアを抱きしめた。
「ありがとう……ありがとうございます!」
こうして会長選挙を戦い抜いて、勝つことができたのはアリアのおかげである。
潤んだ瞳のユレストに強く抱きしめられて驚いたけれどすぐに軽く背中に手を回して応えてやる。
「ユレスト会長、ステージに上がらねばなりませんよ」
「そ、そうですね……」
ハッとしたように顔を赤らめてユレストがアリアから離れた。
ノラやカールソンなどの支持者もユレストの周りにいるのだけど少しだけ怖い顔をしていることにユレストは気づいていない。
アリアに促されてユレストがステージに上がる。
「ユレスト・アルケマイン君、おめでとう。これまでのやり方を覆し、君自身の言葉でみんなの心を動かした。アカデミーの未来は明るい。君がこれからの1年間アカデミーを率いてくれること、期待しているよ」
「ありがとうございます。僕の全力をもって会長職を務めさせていただきます!」
アルドルトと握手を交わして、正式にユレストが会長に任命された。
「最後に、アリア・エルダンさん、あなたに感謝したい」
ステージから講堂の方に向き直ったユレスト。
その視線の先にはアリアがいた。
「彼女が僕に可能性を見出してくれた。そのおかげで僕は戦えた。僕の勝利の女神だ」
やめてくれと思うけれどもう止められもしない。
周りのみんなの視線がアリアに集まる。
しょうがないのでここは精一杯穏やかな笑顔を浮かべてユレストに手を振っておく。
「1年間、アカデミーのために会長として頑張ります。これからも応援よろしくお願いします」
みんながユレストに大きな拍手を送る。
そんな中でエランがどこかに飛ばされて残されることになったエリシアはとんでもない目をしてアリアのことを睨みつけていたのであった。