ザ・アリアプロデュース4
アリアとノラが並び、ユレストと対面して座る。
「……ご支持くださるのはありがたいですが僕は正直会長選挙に勝てるとは……」
エルダン家のご令嬢と第三王子の支持。
大きな後押しになってくれることは間違い無いと思うけれどそれだけで会長選挙に食い込めるとはなかなか思えなかった。
そもそもそれだけで食い込めるなら基本的な人気があるだろう。
しかしユレストにはほとんど支持がないのだ。
「やる前から諦めるのはダメですわ」
「……まあ、そうですね」
「もう少し……戦ってみるつもりはありますか?」
このまま弱気ならば別の適当な候補者を支持しようかなとアリアは考えていた。
しかしやるというのならユレストを全力でパックアップする。
「…………はい、こうして僕のことを支持してくれるという人も現れてくれたんです。頑張ってみたいと思います」
「その意気ですわ」
「なんでも、できることならやってみます」
「ではこれからユレストさんの戦略を考えましょう」
「ですが僕は考えを変えるつもりはありませんよ?」
できることはするけれど人気取りのためだけにくだらない主張をするつもりはない。
何が何でも会長になりたいというわけでもないのだ。
「分かっていますわ。ただユレストさんは主張の仕方が下手くそなのです」
「主張の仕方……ですか?」
「そうですわ。例えばユレストさんは校舎の改築を訴えていますね」
「そうです」
アリアが自分の主張を知ってくれていることにユレストは嬉しそうな顔をした。
「この主張ではダメですわ」
「え?」
「改築は手段であって目的ではありませんわ」
アリアはザックリとユレストの主張を切り捨てた。
しかしそれはユレストのやり方が間違っているのであって主張そのものが間違っているものではなかった。
「どういうことですか?」
「なぜ校舎の改築が必要なのですか?」
「それは……不便だから。他の教室に行くのに回らねばならなかったり階段が遠かったりするから」
「そうですね。それは私も同感ですわ」
アカデミーは最初からそれなりに大きな建物から始まったものであるが、年月が経って生徒の数が増えて学びを増えていくとどうしても既存の校舎だけでは間に合わなくなった。
そのためにアカデミーは校舎の増改築を繰り返してきた。
いびつさはほとんど見受けられないように上手く造られてはいるのだけどよく見ると増改築の影響で不便なところが色々とあるのだ。
その中の一つにユレストが言うような構造上移動がしにくいところがあるなんて問題があるのである。
校舎の改築に目をつけてそれを主張するのはいいと思う。
けれど校舎の改築を押し出されても生徒の側はその真意を理解するのは難しい。
「不便があって、改築がある。それはいいのですがさらにもう一歩踏み込んでこそ理解を得られるのですわ」
「もう一歩?」
「改築は他の生徒のためにやるのですよね? でしたら改築を主張しますではなくて改築して利便性の向上やアクセスの良さを改善して生徒の負担が減ることを主張すべきですわ」
生徒たちだってわざわざ候補者たちが何を考えて主張をしているのかまで見てはくれない。
ならばわかりやすい結果を提示してやるのが支持を集めるためには必要なのである。
改築するというのはあくまで手段でしかなく、改築した後にどうなって生徒にどんな利益があるのかを言うべきなのだ。
ちゃんと主張を見てユレストの意図を汲み取ってくれる生徒なら気づけるだろう。
だがユレストの主張には分かりやすさがないのだ。
「なるほど……」
ユレストがしている主張もどれも似たようなもの。
問題があってその解決をするための手段を主張するところまでで止まってしまっている。
もう少し進んで必要なことを主張するだけで見てくれる生徒も出てくるはずなのだ。
「だから主張の内容をあらためて考えましょう。生徒にとって魅力的に見える利益があればそれを押し出していくのですわ」
「理解しました」
「アリア……すごいね」
ユレストだけでなくノラも驚いている。
想像していたよりもアリアがしっかりと会長選挙について考えていた。
「やるなら私は本気でやりますわ」
それに何もエランのことを牽制するという目的だけを持っているのではない。
ユレストの主張の中にはもし実現できればケルフィリア教の活動を抑制できそうなものもあった。
仮に会長になって本当にやってくれるならケルフィリア教のアカデミーでの活動そのものに打撃を与えられるのだ。
「あとは……」
「まだ何かあるのですか?」
「なんでもやる……とおっしゃいましたよね」
「え、ええ……僕にできることなら」
「ならやっていただきましょう」
主義主張の内容は問題ない。
次に必要なのはユレスト自身が注目を集められるようにしなければならないのである。
「ふふふ……これは私も気になっていましたの」
「な、なんだか怖くありませんか?」
「うん、僕もなんだか怖いよ……」
不敵に笑うアリア。
ユレストをエランにぶつける準備は動き出していた。