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ザ・アリアプロデュース3

「勝つつもりもないのになぜ立候補したのですか?」


 なぜユレストがこんなことになってしまったのか気になった。

 立候補したということは少なくとも最初は熱意があったはずなのにと思う。


「……正しいことをすれば理解してもらえると思ってた」


 少し泣きそうな顔をしてユレストはうなだれた。


「しっかりと正しいことを主張すれば周りの理解を得られて人がついてくると思ってたけど……現実はそう甘くなかったんだ」


 生徒が抱える不満を解消する案や生徒が望むことを汲み取った改革を主張すればみんなが理解を示してくれて、自然と支持してくれる人も増えるだろうとユレストは考えていた。

 けれども現実はそんなに甘くない。


 人気もないものが声を上げたとしても聞き入れてくれなどしないのだ。

 正しかったとしても聞いてもらえなきゃ誰の賛同も得ることは叶わない。


 そんなもの当然だろうとアリアは思ったが同時にユレストには多少頭の固い部分もあったことを思い出した。

 それに回帰前に出会ったユレストはすでに大人だった。


 こうした失敗を経て学び、ユレストは再び何かの理由で正義感に燃えて正しいことをしようとし始めたのかもしれない。

 回帰前もおそらく会長選挙に出て同じようなことをしたのだろう。


 ともかく今のユレストは思いの外支持してくれる人もいなくて挫けてしまっているのであった。


「あなたの主義主張は間違っていませんわ」


「えっ?」


「ですがあなたのやり方は間違っていますわ」


「…………どういうことですか?」


「ユレストさん、次の授業は……」


「そんなことどうでもいい!」


 ユレストはアリアの手を取った。

 アリアの目を見つめるユレストの瞳の奥で小さくなっていた炎が少し大きくなった。


「みんなは僕に会長選挙などやめておけと言った。僕の言うことの内容を議論することもせず、王族がいるから無駄だと言って」


 ユレストはアリアに顔を寄せる。


「でも君は僕の主張を見てくれた。その上でやり方が間違っていると指摘までしてくれた。授業なんていい。君の話を聞かせてほしい」


 ユレストが大人になって変わったのだと思ったけれど違った。

 ユレストはユレストだった。


 回帰前の時と同じ強い意思の炎を宿した目で真っ直ぐに問題と向き合っている。

 興奮すると相手の手を取ってしまう癖も変わらないなとアリアは少し微笑んだ。


 そのせいでちょっとした勘違いをされたり、アリアの手を取ってエランに処罰されかけたりもした記憶はアリアの中にだけある。


「ぜひとも私もユレストさんとお話ししたいですわ」


「じゃあ、今すぐ……」


「それはダメです」


「ええっ?」


「私の方にも都合というものがありますので」


 ユレストは優秀だ。

 おそらく卒業に必要な分の授業はもう取り終えてしまっている。


 だから多少の授業をサボったところでなんの影響もない、

 しかしアリアにだって授業はある。


 もう次の授業には間に合わないだろうけれど遅れたっていくつもりだった。


「会長選挙の立候補者は会議室の利用許可が申請できましたよね?」


「あ、ああ」


「ではユレストさんのご都合のいい時間お教え願えますか?」


「僕はいつでもいい。君のためならいくらでも時間を空けよう。僕の時間は君のものだ」


 知らない人が聞いたらあたかも告白のようであるがユレストにそのつもりはなく、純粋にアリアの都合に合わせるというだけの話である。


「では、明日の午後……」


「今すぐ会議室を申請してくるよ」


「あっ……速い……」


 アリアの言葉が終わるのを待たずにユレストは走っていってしまった。

 相変わらず行動力は高い。


「あとは女性の手は無闇に握るものでないことも言っておかねばなりませんね」


 これを忠告することを忘れていた。

 ユレストもそこそこ顔はいい。


 手を握られて勘違いする女性も回帰前には存在した。

 周りがその癖を知っていたらなんともないのだけど初対面で手を取ってしまうのはちょっといけない。


「さて、これからどこまで戦えるようになるか……」


 ーーーーー


「ノラスティオ・フォン・ガルジェンダインです。よろしくお願いします」


「ユレスト・アルケマインです。……第三王子ですよね」


「そうです」


 どうして?という視線をユレストはアリアに向けた。


「こちらのノラスティオ様もユレストさんのことを支持くださるそうです」


「な、何ですって!?」


 まさかの支援者の出現にユレストは驚きを隠せない。


「アリアさん!」


 再び興奮したユレストはアリアの手を取った。

 喜びで少しユレストの目が潤んでいる。


「ありがとう……」


「ユレストさん、女性の手を軽々しく握るものではありませんよ」


 顔が近いのもユレストの癖である。

 ノラがムッとしたようにアリアとユレストの間に割り込んだ。


「あっと……申し訳ありません。つい」


 ユレストはハッとしたように頭を下げた。

 そこそこ広い会議室ではあるけどアリアとノラとユレストの3人しかいない。


 他の候補者にバレないように最低限の人しかいないのだ。


「それじゃあ早速会長選挙について話しましょう」

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