ザ・アリアプロデュース2
まさかここで会長選挙に立候補しているとは思わなくてアリアも驚いた。
しかもユレストは泡沫候補であってかなり目立たぬ存在となっていた。
それもそのはずである。
アカデミー内の掲示板などには立候補者の主義主張などを貼り出しておくこともできるのだが、ユレストはなんの飾り気もなくクソ真面目なことを書き連ねていた。
正しいことが書いてあってもこれじゃあ誰も読まない。
ただクソ真面目な内容だけでなく、アカデミーの生徒が好みそうな変化をもたらすことも内容にあったのにもったいない。
「……アリアはその人が当選する見込みがあると思ってるの?」
「可能性はあると思いますわ」
ユレストは顔も悪くない。
真面目で会長になればアカデミーの運営もしっかり取り組んでくれるだろうことは目に見えている。
現時点で可能性はないけれど可能性を出させることはできるのではないかと考えていた。
「……じゃあ僕もユレストって人推してみようかな」
「ノラ様も?」
「うん。僕は誰に入れてもいいんだけど兄さんにちょっとイジワルをされてね。落ちればいいなんて思ってるんだ。それに……アリアにもちょっかい出してるし」
ノラも王族である。
エランや他の王族たちと同じく生徒会に入って経験を積むのが一般的なのである。
しかしノラは生徒会に入ることを拒否された。
普通の生徒がそんなことをするはずがなく、ノラを生徒会に入れないようにしたのは当時副会長だったエランだった。
一年生で経験がないからなどと言い訳をしてのことだったがエランが手を回したのはバレバレだった。
流石に二年目からは表立ってそんなイジワルしないだろうがエランがトップの下で活動するのはノラもやりにくい。
出来るならエランが落選してくれればノラとしても嬉しいのである。
それに加えてエランがアリアを引き込もうとしていたこともノラにとっては気に入らないことだった。
「でも……僕やアリアが推しただけで本当に当選するかな?」
「無理ですわ」
「ええっ!?」
アリアとノラが支持したと話が広まれば注目は集まるだろう。
多少の票も得られるだろうがエランと戦えはしない。
「じゃあどうするの?」
「ユレストさんがいけないのは戦い方を分かっていないことですわ」
回帰前でもそうだった。
正しさだけを押し出しても反発する人がいれば計画が頓挫することがある。
そうした人をいかに説得して味方につけるか、あるいは強い主張でもソフトに言い換えたりして敵を作らないようにしたりと正しい戦い方をしなければいけないのだ。
今のところユレストにはそうしたことを忠告してくれる人はいないようである。
「少し戦い方というものをお教えして差し上げようと思いますわ」
ついでにこれはチャンスだと思った。
ユレストは戦い方を分かっていないだけで頭は良くて思っていてもやれないようなことを実行する行動力がある。
回帰前も失敗を積み重ねたユレストはやり方を学んで若いながらに行政のトップを狙えるところにまで上っていた。
今から戦い方を知ればとんでもない軍師に化ける可能性がある。
そしてその才能をノラの側に引き込めればと思ったのだ。
「ふふっ、ちょっと面白そうじゃありませんか?」
上手くやればエランは会長になることもできなくなる。
どんな顔をするのかと想像してアリアは不敵な笑いが止まらなかった。
ーーーーー
「少しお待ちになってくださいませ」
「…………なんでしょうか?」
壁に手をついてそそくさと教室を出たユレストを止める。
ユレストとは知り合いではないのでどこにいるかも知らないが最高学年で頭の良い生徒が取りそうな授業なら予想はつけられる。
人気もない小難しい経済学の授業にユレストがいることを確認したアリアは待ち伏せしていた。
声をかけても無視して行こうとするので仕方なく力技に出させてもらった。
「会長選挙に立候補しているユレスト・アルケマインさんですね?」
「そうですが」
「…………」
「なんですか?」
わざわざ壁際に追いやってまで呼び止めたのに顔をじっと見つめるだけのアリアにユレストは眉をひそめた。
「本気で会長になるつもりですか?」
「……それは」
ユレストはアリアから目を逸らした。
「……ガッカリですわ」
アリアは深くため息をついた。
逃げないようにとついたままだった手を壁から離して一歩下がった。
「何が……」
「本気で会長でなるつもりもないのに立候補したのですか?」
ユレストはギョッとした。
こんな短い間にアリアに心の内を見透かされたような気がしたのだ。
アリアは本当にガッカリとしていた。
回帰前のユレストは何者にも屈さないような強い意思を秘めた目をしていた。
熱意に燃えて、自分の道を突き進む強さがあった。
なのに今のユレストはどうだろう。
会長選挙のことを言及した瞬間にユレストはアリアから目を逸らした。
てっきり回帰前のようにアリアの目をまっすぐに見返して本気だと答えるのだと思っていたのに。
なんの心変わりがあったのか知らないけれどアリアもそんなユレストの態度にガッカリだった。
これでは勝てるものも勝てやしない。