ザ・アリアプロデュース1
一年の時は知り合いもいなかったので生徒会会長選挙などに興味はなかったけれど今回はエランが出るということで少し気にしてみることにした。
最初に接触があった時から数回エランはアリアに声をかけてきた。
その度にのらりくらりとかわしていたのだけどある時からパッタリとアリアのところに来なくなった。
理由はすぐに分かった。
エリシアがエランを支持し始めたのである。
グランドヴェール家もそれなりに影響力がある。
一向になびかないアリアよりもエリシアを選んだようである。
もしかしたらエリシアが何かの口添えをしてアリアのことを諦めたのかもしれない。
アリアとしては声をかけられなくなって安心した。
カールソンやディージャンなど邪魔になりそうな人がいる時には声をかけてこないというのもまた面倒だったのだ。
そしてこの感じを見るにエリシアとエランの関係はもうアカデミーから始まっていたのだろうとアリアは思った。
回帰前のエランのことを考えると未練など微塵もないのだけどこんな時から関係があって、寝取られたのだと思うと苛立ちを覚えずにはいられない。
「ア、アリア? 何を怒ってるの?」
「なんでもありませんわ、ノラスティオ様」
「ノラでいいって。アカデミーはみんな平等だよ」
たまたま授業が重なってノラがアリアの隣に座った。
パメラとトゥージュもいるのだけど2人とも気をつかってアリアの隣を1つノラのために空けるのだ。
ノラはアリアが不機嫌なオーラを発していることに気がついて顔を覗き込んだ。
エリシアとエランのことを考えるとムカムカとしてしまう。
考えないようにしても会長選挙が近いのでどうしてもどこかしらで目にしたり耳にするのだ。
「アカデミーは平等でも外に出れば違いますわ」
アカデミーは平等などと言うけれど一緒アカデミーの中で暮らすわけじゃない。
一歩でも外に出れば平等な世界などといかないので結局アカデミーでもある程度の節度は必要なのである。
「でも僕が良いっていってるんだよ? ノラスティオ様だと距離を感じて寂しいな」
「……はぁ、分かりましたわ、ノラ様」
「様もいらないけど……まあいいか。アリアは会長選挙、誰を支持するのか決めた?」
「考えている人はいますわ」
「まさか兄さんじゃないよね?」
アリアはノラの顔を見る。
どことなく不安そうな顔をしている。
アリアがエランに誘われていたことは噂に耳ざとい人ならば知っているはず。
エランを支持することは単なる支持だけでなく他にも意味を持ちうるのである。
「……エランは私の候補に含まれていませんわ」
ノラなら良いだろうと正直に打ち明ける。
当然ながらアリアにエランを支持するつもりなどない。
その気なら最初に誘われた時にそう返事していた。
「そうなんだ!」
まだまだ子供のノラはアリアがエランを支持しないと聞いて普通に笑顔を浮かべてしまう。
腹の中はともかく表面上兄弟が争っているなど見せてはいけないのでここはウソでも笑顔は浮かべるべきじゃないのだ。
ただここでの会話に聞き耳を立てて余計な噂をする人もいないので今はいいだろう。
「パメラとトゥージュは誰か支持する人は決めているのかしら?」
大人しく聞き耳を立てている2人にも話題を振ってみる。
3人のうちで会長選挙に関して会話したことはこれまでなかった。
「んー……私はまだよく分からないな。知っている人もいないし」
知らない候補者の中から選べと言われても困る。
トゥージュも特に関わりのある人はいないので誰を支持するのか決めかねていた。
「私は同じ商人系の人が出てるらしいからその人に入れようかな。関わったことはないけど」
パメラは自身と同じ商人の候補者に一票を投じるようだ。
関わり合いのある人ではないがどこかで会長選挙の話が出るかもしれない。
一票を入れましたよなんて言っておけば相手の気分も良く話し合いに入れるかもしれないのならそうしておく。
同じ商人を応援したいという気持ちもあった。
「アリアは誰を考えているのですか?」
「……私はユレスト・アルケマインさんを支持しようと考えていますわ」
「ユレスト……さん?」
「知ってる?」
「いいえ……私も知らなくて」
それもそうだろうとアリアは思った。
ユレストは会長候補の中でももっとも目立っていない存在だったから。
しかしアリアはユレストのことを知っていた。
知り合いというのではない。
ならばどうして知っているのか。
回帰前にユレストと会ったこともあるからであった。
天才文官。
非常に頭が良く、正義感を持って不正を許さずいくつかの改革を進めた人物であった。
力が足りなくて失敗に終わったものもあったがその結果で潰された腐敗もあって、高く評価された人物だった。
アリアがエランと婚姻関係にあった時にもユレストは意欲的に活動していた。
時には不正を一掃するために協力をしてほしいとまっすぐな目で訴えかけてくることもあった。
あの切れ長のクールな目つきはなかなか忘れられるものではない。