ハッピーバースデーアリア3
「きょ、今日誕生日……なの?」
「いいえ、違いますわ」
「ええっ?」
誕生日だから祝う。
それなら理解できる。
なのに誕生日なのか聞いてみるとアリアは違うと答えた。
それによってジェーンはさらに混乱する。
それにしてはゴラックたちは真面目な顔をしているしテーブルに見える料理も豪華である。
誕生日じゃないのに誕生日をお祝いするのはなぜなのか。
「今日そのものは誕生日じゃないけどアリアの誕生日はアカデミーの期間中になりますから」
「あっ」
ディージャンが笑いながら説明してくれてようやくジェーンも理解した。
アカデミーにいる間は基本的にアカデミーの外には出られない。
しかし誕生日をずらせるわけではないのでアカデミーの期間中に誕生日を迎える人もいる。
自分でお祝いはできても家で家族と誕生日を祝うことは難しい。
ではどうするかというと祝わないというのも一つである。
けれど祝わないのは少数派であり、ほとんどの人はタイミングをずらしてお祝いするのである。
もっといえばアカデミーが終わった後か、あるいはこうして間の休みに行うのである。
アリアの誕生日はどちらかといえば終わった後よりも休みの方が近いので休みにお祝いしようということになったのである。
回帰前はアリアはこうした休みにアカデミーから帰らなかった。
同居人も帰っていて人が少ないアカデミーの方が居心地が良かったのだ。
帰ってもみんなも顔を合わせるのが嫌でアリアに与えられていた別邸の方に引きこもっていた。
だからこんな風に祝ってもらうのは初めてでアリアも驚いたのである。
「わ、私知らなかったから」
「別にいいのですわ」
アリアも知らなかったのだからジェーンも知らなくて当然である。
ジェーンは申し訳なさそうな顔をしているが誕生日の用意などしようもない。
「それに……」
アリアはジェーンの手を取った。
「ジェーンが騎士として私のところに来てくれる。このことだけでも私にとってはプレゼントですわ」
「ア、アリア……」
ジェーンはうっすらと微笑み下から覗き込むように妖艶な視線を向けられて顔を赤くする。
アリアにしてみればオーラユーザーであるジェーンが騎士となってくれることは大きなプレゼントである。
お人形のような綺麗な顔のアリアに見つめられて、むず痒くなるような褒め言葉までもらってジェーンはモジモジとしてしまう。
「そ、そんな……」
「そんなこと、あるのですわ」
そのままキスでもしそうだとユーラはちょっと思った。
「ははっ! 間に合ったようだね!」
ニッコリとアリアに見つめられてジェーンの顔の赤みは増していく。
そろそろ止めてやらなきゃ倒れてしまうのではと思っていたら激しくドアが開いた。
「あら、オバ様!」
「アリアが帰ったと聞いて私も駆けつけたよ!」
部屋に入ってきたのはメリンダであった。
アリアの叔母であり、聖印騎士団との繋ぎ役でもある。
アリアが帰ってきて誕生日会をやると聞いたので急いでエルダン家の方にやってきたのである。
「後ろの男性はどなたですの?」
メリンダの後ろにはいつものようにクインがいて折り目正しく頭を下げている。
そしてその隣には両手に箱を抱えた大柄の男性が立っていた。
「荷物持ちだよ!」
「……メリンダ・アクオの息子のハラジアです」
やや垂れ目の優しい顔をしたハラジアは困ったように笑っていた。
アリアもハラジアのことは回帰前にほとんど見たことがない。
だから見ても全く分からなかったのだ。
思っていたよりも立派な息子がいたものだ。
「姉さんもっと穏やかに入ってはこれないのですか?」
「ふん、ドアなんて激しく開けてなんぼだよ」
そんなことはない。
「母がいつもすいません……」
ハラジアが手に持った箱が落ちないようにしながら頭を下げる。
見た目的にも性格的にもメリンダとはだいぶ違う。
もしかしたら父親の方がこんな感じなのかもしれないとアリアは思った。
「まだ食事も始まっていないようだね? ハラジア、それを隅の方に置いておきなさい」
「分かりました」
「久しぶりだね、アリア。少し大きくなったかい?」
「お久しぶりです、オバ様。成長期ですので大きくなったかもしれません」
回帰前も胸はともかく、身長はそれなりに大きくはなった。
以前と違ってよく食べ健康的に過ごしているのでうまくいけば回帰前よりも背ぐらいは高くなるかもしれないと期待はしている。
「クインも久しぶりですね」
「はい、お元気そうで何よりです」
クールなメイドさんらしく感情を表に出すことの少ないクインだがアリアに久々に会えた喜びに微笑んでいた。
最初こそアリアに対して懐疑的であったけれど今はクインもアリアのことを仲間だと思っている。
「それにしたってなんだってこんな突っ立てるんだい? せっかくの食事が冷めてしまう」
そう言ってメリンダが席に着いて、みんなもゾロゾロと座る。
「それでは改めて。うちの可愛いお姫様の誕生日を祝して」
「おじ様……」
「はははっ、まあ、堅苦しい挨拶などみんなの前ではいらないだろう。料理長が腕によりをかけてくれた。食事を楽しんでくれ」
流石にお姫様だなんて言われるとアリアも恥ずかしい。
顔を赤くするアリアにゴラックは笑顔を浮かべる。