ハッピーバースデーアリア2
確かに動いて汗はかいたので夕食の前に身を綺麗にしていてもいいかもしれないとは思う。
「その通りにいたしましょう。シェカルテ」
「はい、すでに準備は整っております」
「じゃあ行きましょう、ジェーン」
ディージャンとユーラの様子はおかしいがあれぐらいの様子ならそう遠くないうちに何を隠しているのか分かるだろう。
面倒なので問い詰めることもなくアリアはその場を離れていった。
「お久しぶりです、お嬢様〜」
「あなたも元気そうね、スーシャウ」
アリアのもう一人のメイドであるスーシャウが入浴の準備を整えて待っていた。
相変わらず間伸びした話し方をしている。
スーシャウもアリアのメイドではあるのだがアカデミー近くの別邸の方にはいかず、こちらの本邸の方でアリアの部屋の維持などをしてくれていた。
「ジェーンは綺麗な体をしていますね」
「にゃ、そ、そんなに見られると恥ずかしいよ!」
エルダン家には大きな浴室もある。
元々は騎士たちのためのものであったのだが、先代のエルダン家当主がわざわざ個人用のものを使って入浴するのはめんどくさいと言ってこちらに入り始めた。
今では普通にゴラックなんかもこちらに入る。
女性用の大浴場もあって、アリアはそちらを使っている。
ビスソラダは個人用の浴槽を使っていたが、アリアは広い方が好きなので大きなお風呂がいい。
時々女性騎士とタイミングがぶつかることもあるけれどそれはそれで交流である。
そして大きなお風呂ならジェーンも一緒に入れる。
アカデミーにも男女それぞれで入浴できるお風呂があった。
ユーケーンでの鍛錬終わりなどに入ることもあったのでジェーンと一緒になったこともある。
改めてジェーンの体を見て綺麗だなとアリアは思った。
ジェーンは手足が長くて身長が高い。
胸もあるし、鍛えられて引き締まった体は女性であるアリアから見ても均整が取れている。
アリアに見られてジェーンは恥ずかしそうに体を隠す。
「ア、アリアだって……」
アリアはまだまだ発展途上。
服の上から見た感じでは細くも見えるのだが、実際見てみると鍛えてるからよく引き締まっている。
まだまだ身長は伸びそうな感じがあるしこれからの成長に期待ができそう。
「胸が大きくなってくれれば嬉しいのですけど……」
「胸だってまだ分からないよ!」
「……そうですわね」
ジェーンは励ましてくれるけど一度大人になったことがあるアリアは知っている。
胸に関してはあまり大きくならないということを。
回帰の前とは違う人生を歩んでいるけれど過度な期待をしてショックを受けるのは自分である。
ジェーンの励ましにアリアは遠い目をして答えた。
別に胸が無くてもいいのだけどドレスを着た時に綺麗に見えたりもするので多少はあった方がいい。
それにやっぱり無いとある方に憧れを持ってしまうのは乙女として仕方ないのである。
「わ、私は大丈夫……」
「お嬢様のお友達ですからね〜。遠慮なさらなくていいんですよぅ〜」
入浴が終われば今度はシェカルテとスーシャウが髪を拭きながらブラシでとかしてくれる。
ジェーンは断ったけれどスーシャウがニコニコとしてジェーンの髪のお手入れをしてくれるので受け入れるしかなかった。
「お嬢様……髪のお手入れサボってましたね?」
「…………そんなことは」
「うそは通じませんよ!」
誰も怒る人はいない。
結構髪のお手入れも面倒なのでざっくり拭いてそのまま寝てしまったようなことはアカデミーにいる時はあった。
しかしそれを見抜かれるとは思わず、アリアは珍しく動揺してしまった。
「ダメですよ、ちゃんとお手入れしなきゃ」
「分かりましたわ」
「ふふっ、アリアはメイドさんと仲良しなんだね」
「そうですね。私はシェカルテをキン……むぐっ!」
「お嬢様? それはご友人の前ではいけないかと?」
アリアが言おうとした言葉を察してシェカルテがアリアの口を塞いだ。
なかなかお下品な言葉。
未だにそのあだ名は消えることがなく、けれどもシェカルテはそれを受け入れたことは一度だってない。
「きん?」
「なんでもございません。決してお気になさらないようにお願いします」
「は、はい……」
妙な圧力を感じてジェーンは触れてはいけないことなのだなと察する。
「どうですか〜?」
「なかなか……良いですね」
人に髪をといてもらうなど子供の頃以来。
子供の頃は早く終われなんて思っていたけれど今こうして丁寧やってもらうと意外と良いものであると思った。
スーシャウは手先が器用でこうした作業が丁寧で得意なのでジェーンも気分が良くなっていた。
ブラッシングされている犬のようだとアリアはちょっとだけ思った。
髪を乾かしている間に夕食の準備ができたというので服を着替えて向かう。
「アリア!」
「誕生日おめでとう!」
「おめでとう、アリア」
シェカルテがドアを開けて中に入ると、入ってすぐのところにゴラックたちが立って待っていた。
何事か、と思ったけれどかけられた言葉で一瞬にして状況を理解した。
「えっ、えっ?」
ただジェーンだけは何が何だか分かっていないようである。