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カラッポと嫉妬の塊3

 性格は悪いが泣いている姿も絵になるなとシェカルテは冷めた目で見ている。


「ユーラ!


 言って良いことと悪いことがあるぞ!」


 ディージャンがユーラを叱責する。

 いつもなら諌めるぐらいだが泣かせてしまってはいけないことなのでディージャンも怒る。


「いいんですお兄様……私が厄介者で、邪魔で穀潰しで役立たずでブスでグズで……」


「い、いや、そこまで言って……」


「ユーラ!」


 ワタワタとするユーラをディージャンが睨みつける。

 ユーラから言われたこともない言葉もあるがディージャンはアリアの口から飛び出した言葉が過去にユーラがぶつけた言葉なのだと解釈した。


「ち、違う……そんなこと、いや言った言葉もあるけどそんな泣かせるつもりなんて……」


「いいからあっちに行っていろ!」


「う……はい…………」


 珍しく声を荒げるディージャンに気圧されてユーラもトボトボと去っていく。


「ごめんよ。


 ユーラが……アリアが泣くほど嫌がっていたなんて……」


 この事に関してディージャンも無罪ではない。

 厄介者と目の前で呼んだこともあった。


 アリアが何の反応も見せなかったので咎めはしてもそこまで強く出ることもなかった。

 実際には我慢していて、泣いてしまうほどだなんて思いもしていなかったのである。


「おぼっちゃま、あとはおまかせください」


 アリアがほんの一瞬シェカルテに視線を送った。

 それに気づいたシェカルテがどうしたらいいか困惑するディージャンとアリアの間に割り込む。


「で、でも……」


「おまかせ、ください」


「……うん」


 ここはアリアの面倒をよく見ているメイドに任せた方がいい。

 慰める言葉も方法も分からないディージャンはシェカルテに冷たく見下ろされてスゴスゴと本館の方に帰っていった。


 アリアはシェカルテに付き添われるようにして部屋に戻る。


「はぁー!


 カラッポと嫉妬の塊めぇー!」


 そしてベッドにダイブすると布団で顔を拭く。

 マナーも何もあったものじゃないが見ているのはシェカルテだけだし気にしない。


「よくやったわ、シェカルテ」


「ありがとうございます」


 泣きマネも限界だった。

 それに最後まで面倒を見させないことでディージャンにもちょっとした罪悪感を植え付けたままにさせることができた。


 上手くアリアの意図を汲み取ってくれたシェカルテの演技は中々だった。

 しかし泣いただけであんなに困惑するだなんて思いもしなかった。


 回帰前の印象が残っていたけど今ではまだまだ子供ということか。

 会うことがなかったからあの2人も子供であることをすっかり忘れていた。


 ディージャンはあまり印象も変わらずコントロールしやすそうだった。

 ユーラの方はちょっと回帰前とは印象が違う。


 もっと陰湿な嫌な奴だったイメージを持っていたけれどアリアの涙に慌てる姿を見るとまだクソ野郎街道の入り口ぐらいで留まっているのかもしれない。


「…………しょうがないから刺繍でも練習いたしましょうか」


 最初は闇討ちでもして滅ぼすつもりだったけどまだ矯正できるなら下僕として生かしてやっても良いかもしれない。

 ディージャンやユーラが戻ってくると面倒なので外で体を動かす事はやめにして別のスキル上げを行う。


 刺繍をやってみて分かったのはオーラ以外のスキルレベルは子供の頃に戻ってリセットされていたことである。

 回帰前のアリアは刺繍スキルに関して極まっていた。


 どのような図柄であっても手早く美しく完璧に刺繍できているほどにレベルが高かった。

 確か刺繍に関しては30レベルぐらいあったはず。


 目をつぶっていたって刺繍出来ていたのに今ではどうだろうか、簡単な図柄すら苦労する始末。

 これがスキルレベルってやつかとアリアは痛感した。


 回帰前の感覚でやろうとすると指先がどうしても追いつかず針で刺してしまった。

 だから今はゆっくり丁寧に楽しむように刺繍をしている。


 経験はあるので同じスキルレベルでも他の人に比べるとアリアの方が早くて上手くはあるだろう。

 刺繍スキルにおいて大事なのは最後まで完成させること。


 途中でもレベルは上がることはあるけれどしっかりと最後まで完成させる事によってレベルが上がることが多いのである。

 慣れてくればある程度考え事しながらでも出来るので刺繍はそこら辺ありがたい。


「どうして命の取り合いになるほどあの2人は仲が悪くなったのかしら……」


 よくよく記憶を掘り起こしてみる。

 ユーラの態度はアリアに対して悪かったが常に兄の後を追いかけていたなと思い出した。


 ディージャンは悪態ばかりつくユーラに嫌われていると考えていたが、実は単純に兄と近づきたいけど近づけない思春期の照れだったのかもしれない。


「それが殺し合うほどの憎しみに変わる……いたっ」


 集中しすぎて指先を指してしまった。

 プクッと指先に血が溜まる。


「まあ何でも良いですわ」


 コントロールできるならやる。

 出来ないなら消えてもらう。


「……シェカルテ、そろそろ準備をいたしますわよ」


 指先の血を刺繍していたハンカチで拭く。


『刺繍のレベルが上がりました。

 

 刺繍レベル3→4』

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