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騎士として、友として3

「エルダンの騎士になるのはいい。だがアリアの騎士になるというのなら……どんな時でもあの子の味方であってほしいのだ」


「エ、エルダンさん……」


「改めて聞こう。なぜアリアを選んだのかを」


 ゴラックは本気でアリアのことを考えている。

 ならばジェーンも本気で応えなければいけないと思った。


「アリアには……感謝しているんです」


「感謝している?」


「……私には好きな人がいました。人望も厚くて、努力家で、優しくて……」


 ジェーンの頭の中にはまだ優しく笑っているキュミリアの思い出があった。

 同い年でユーケーンにも入って共に切磋琢磨した。


 真面目でリーダーシップもありながら必死に努力を重ねる姿にいつの間にか恋をした。


「だけど彼は闇を抱えていたんです。人すらも殺してしまうような、歪んだ闇を……。私はその闇に気づいてあげることもできませんでした」


 未だにキュミリアがやってしまったことには信じられないという思いは拭えない。

 頭では分かっているのだが、普段のキュミリアを知っている心が理解を拒否しようとするのだ。


「きっと……気づかないままに過ごすこともできたでしょう。でもアリアは彼の本当を見せてくれました。そして彼を止める機会をくれました」


 正直アリアもキュミリアが待ち受けていることは分かっていたのでジェーンを連れていくのか悩んだ。

 けれどジェーンはアリアについていくことを選んだ。


 理由は色々ある。

 戦力になるからなどの理由もあるがアリアはジェーンも知らなければならないと思ったのだ。


 共に過ごした時間が長く、恋をして想いがあるからこそジェーンにも知る権利がある。

 何も知らないままに過ごせば傷はつかない。


 だけどアリアは裏で何が起きているのか知らないことのショックを知っている。

 全ての罪を被せられ、悪人として死んだ。


 そのまま一生知らないのなら構わないのかもしれないが、何かのきっかけでそれを知ってしまった時に知らなかったということは一生取り戻しようもない傷になるのだ。

 アリアもジェーンを誘おうとしていたので関わることになればキュミリアのこともどこかで知る可能性があった。


 それならばとジェーンにキュミリアと対峙する場面を与えたのだ。


「知ってしまったことは怖いけれど……何も知らないままだったらと考えるともっと怖いんです。日常から彼がいなくなってアカデミーを卒業して、いつか彼を忘れて……私はそのまま人生を歩み続ける。平穏かもしれないけど……とても怖いと思ったんです。

 けれどアリアは私を何も知らないままにはしてくれなかった。結局知ったら知ったで悩むんですけど、今は感謝しています」


 何も知らない自分と知ってしまった自分。

 どちらが良かったのかジェーンにも分からない。


 でも時間が経って、心に負った傷が癒えてくるとこれで良かったのだと思えるようになった。

 キュミリアは良くない状態になってしまったけれど誰も殺すことはなく生きているままに捕まった。


 事前に止めることできなかったがいくつもある結末の中でも良い最後に落ち着いたんだと思える。

 そうなるとアリアへの感謝の気持ちもジェーンの中には湧き起こった。


 明らかに戦いの中では足手まといだった。

 それでもアリアはジェーンを諦めることはなく、だからといって戦うことも諦めなかった。


 その背中は大きかった。


「アリアが何と戦っているか聞きました。きっと過酷な戦いになるだろうことも聞きました。ケルフィリア教は許せないと思いました」


 もう緊張もない。

 揺れることもない瞳でジェーンはゴラックをまっすぐに見つめる。


「そして私を、私の心を救ってくれたアリアに恩返しがしたい。孤独な戦いに身を投じようとしているアリアのそばに居たいと思ったんです」


 ジェーンの感情の高ぶりに呼応してクリーム色のオーラが漏れ出した。


「友として、そして騎士としてアリアの……アリアお嬢様のおそばにいさせてください」


「……そうか」


 ゴラックは深く椅子に腰掛けた。

 時としてアリアは不思議な力を発揮する。


 人の心をガッチリと掴んでみせるのだ。

 アリアのことを毛嫌いしていたユーラだってそうだし、メリンダや気難しそうなヘカトケイまでアリアの力になろうとしている。


 聞いた話ではカンバーレンドの奥方や息子までという噂もある。


「……アリアを頼むよ」


 どの道レンドンとヒュージャーだけでなく、もっと気を許せるような女性の騎士も必要だと思っていた。


「卒業したらうちに来たまえ。ただし入った後に特別待遇はしないぞ。実力で周りを納得させてみろ。アリアの騎士としてふさわしいと思わせてほしい」


「……はい!」


「あの子はまた面白い人を連れてきたものだ」


 ゴラックは優しく笑う。


「アリアを呼んできてくれるかな? 結果を聞きたがっているだろうから」


「わかりました!」


 そしてアリアにもジェーンを卒業後にエルダン家で騎士として登用することが伝えられた。

 その後に騎士としての教育をして実力としてふさわしいと認められれば正式にアリアの騎士として配属となる。


「なんと言ったのかは知りませんがこうなることは分かっていましたわ」


「ジェーンさんはよほどお前のことを好いているらしい」


「そ、それは!」


「はははっ、いい友達を持ったな! 今夜はみんな帰ってくることだし、料理長に腕を振るってもらおう」


 ゴラックの言葉にジェーンは顔を赤くした。

 お金や名誉も大事だが仕えたいと思う人が大切なのである。


 一足早いがアリアはジェーンを引き込むことに成功したのであった。

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