騎士として、友として2
「こちらのお部屋使ってください」
「わあ……ありがとうございます!」
アカデミーの寮とは比べちゃいけないぐらいの広い部屋にジェーンが嬉しそうな表情をしている。
「さてと……ちょっと中途半端な時間ですわね」
予定では昼ごろに着くはずだったのだが思っていたよりも早く着いてしまった。
何をするのにも短く長いような時間にアリアは頭を悩ませる。
「先におじ様にご紹介しましょうか」
「え、ええっ!?」
「緊張しても仕方ありませんし早めに終わらせてしまった方が気が楽でしょう?」
「た、確かにそうかもしれないけど」
「シェカルテ、おじ様のお時間大丈夫か聞いてきてください」
「承知いたしました」
広い部屋に喜んだのも束の間、ジェーンは緊張し始めた。
ジェーンの実力ならば二つ返事で登用されるだろう。
もしゴラックが嫌だと言っても無理矢理ジェーンは引き入れるぐらいのつもりがアリアにはあった。
「そんなに緊張なさらないでください」
「そんなの無理だよ……」
アリアの推薦があると言っても登用されるかは確実な話ではない。
エルダン家の騎士になることも狭き門の話であるので緊張するのは当然のことであるのだ。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「分かりました。ジェーン、行きましょう」
ジェーンに割り当てられた部屋で待っているとシェカルテが戻ってきた。
どうやら時間を作ってくれたらしい。
ジェーンを引き連れてゴラックの執務室に向かう。
ノックして執務室に入るとゴラックは書類仕事の手を止めた。
「おや、お友達も一緒なのかい?」
「ええ、お時間作ってもらったのはジェーンに関することなのです」
「彼女に関すること?」
「そうですわ。ジェーンをエルダン家、ひいては私の騎士としたいのです」
「ほう?」
単刀直入に用件を伝える。
驚いたようにゴラックが目を見開いた。
学園対抗戦が終わるまでジェーンがどうするのか確定していなかったのでゴラックにもちゃんと伝えるのは初めてとなる。
ゴラックはジェーンという生徒がいることは知っていていた。
エルダン家からも学園対抗戦で引き抜ける人物はいないかと偵察を行うための人員が送り込まれていた。
国の中でも大きな貴族なので学園対抗戦にもスカウトを送り込めるような招待があるのだ。
その中で有望な生徒の一人としてジェーンの名前は当然に上がっていた。
アリアが友人を連れてくること、その名前がジェーンなことは聞いていた。
だがアリアが連れてきたジェーンがそのジェーンと同一人物だとは思いもしていなかった。
だが聞いていたジェーンの特徴とアリアが連れてきたジェーンの特徴が似ていて、もしやという考えがあった。
「ジェーンというのはあの学園対抗戦で優秀な成績を残した、あのジェーンなのかい?」
「はいそうです」
「うーむ、なんと」
機会があれば声をかけたいとはゴラックと思っていた。
しかしジェーンの競争率は高く、すでに志望先が決まっているとのことだったのでエルダン家では声をかけなかった。
そのジェーンをアリアが連れてきて騎士にしたいということに驚きを隠せない。
「……話は分かった。ジェーンさんと二人にしてくれないか」
「分かりました」
置いていかないでほしいという目をジェーンはしているが心配しなくてもいいと目で答えてアリアは部屋を出た。
「……我が家を選んでくれたこと嬉しいよ」
残されたジェーンとゴラック。
ジェーンは見つめられて気まずさを感じていたが短い沈黙を破ってゴラックが口を開いた。
微笑むゴラックにジェーンは少し安心する。
「どうしてエルダンを、いやアリアを選んだのか聞いてもいいかな?」
ジェーンならば他に多くの選択肢があったはずである。
それにもかかわらずエルダン家の騎士となる道を選ぶのには理由があるのだろうと考えた。
アリアが連れてきた以上それほど心配はしていないが万が一のこともある。
「それは……誘われたからで……」
「そういうことではない。君はアカデミーの学園対抗戦で優秀な成績を残した。誘いも多くあっただろう。エルダンではなくアリア個人がした誘いよりももっと魅力的なものが」
「その……」
「私はな、アリアがわからないのだ」
ゴラックは静かにため息をついた。
「あの子が何と戦っているのか知っているか?」
「……はい」
「私もある程度の話は聞いている。確かに復讐したくなる事情もあるだろうと思う。しかしあの子はまだ幼い。
それに復讐に身を燃やし、全てを捨てて戦うには敵は強大だ。全てを忘れろなどとは言わないが復讐ではなく自分の幸せを考えてもいいのにアリアはそうしようとしない」
想像していたのと違うけれどそれでも重たい空気にジェーンの緊張は収まらない。
人が本気で何かをやろうとしていることを止めるなどできない。
ケルフィリア教と戦う聖印騎士団であるということを聞いた後にメリンダからアリアの父であるイェーガーがケルフィリア教と戦って命を落としたことを聞いた。
アリアがどうしてケルフィリア教と戦うのかについて理解はした。
けれどまだ子供であるアリアがそのような茨の道を進み続けることを心配していた。
復讐にこだわらない、あるいは復讐をしながらでも幸せを追い求めることはできるはずである。
それなのにアリアは復讐のみの道を進もうとしている。