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エルダン家にご招待

 学園対抗戦が終わり、アリアたちもアカデミーに戻ってきた。

 アカデミーはアカデミーの方で内々にお祝いも行った。


 休みに入って人の少ない食堂で参加者を労い、今回の功労者であるジェーンはアルドルトから表彰も受けた。

 さらにはアルドルトがジェーンから希望を聞いて特注の剣を作って贈ってくれるという副賞もついている。


 お祝いの食事会が終わるとアリアたちもアカデミーの休み期間に入る。


「アリアのお家……エルダン家にですか?」


 多くのアカデミー生たちがこの休み期間に家に帰るのだが家に帰らないという選択を取る生徒もいる。

 特殊な事情があるばかりではない。


 家が遠いからという理由で学期間の短い休みでは帰らないこともある。

 いいお家柄ならともかくそうでない生徒は歩いて帰ってたり寄り合いの馬車に乗ったりする。


 馬車もタダではないし道中の宿や食事なんかのお金もかかる。

 そう簡単に帰ることができない事情も様々なのだ。


 ジェーンは家に帰るつもりはなかった。

 田舎の小さい騎士の家の出身のジェーンは家がアカデミーから遠い。


 馬車や馬で帰るようなお金もなく、歩いて帰ればただ往復するだけのようになってしまう。

 それならば手紙の1通でも書いてアカデミーでのんびりと鍛錬に励もうと考えていた。


 アリアはディージャンやユーラと共に家に帰るつもりであったのだがそこにジェーンを誘った。

 エルダン家にご招待したのである。


 急にアリアの部屋に呼び出されたジェーンは非常に驚いたような顔をしていた。

 短い休みは家族水入らずで過ごすことがほとんどなのに学友であるジェーンは誘われるだなんて思いもしていなかった。


「どうせならおじ様に紹介しようと思いまして」


 アリアは驚くジェーンにニッコリと笑顔を向けた。


「紹介?」


「そうですわ」


 アリアは優雅に紅茶を一口。

 友達だからお家に招待するのではなく目的があった。


 それはジェーンをゴラックに紹介することであった。


「ジェーン先輩がエルダン家で騎士となってくださること、嬉しく思いますわ。ですが周りは単純には喜んでくださらないでしょう」


 学園対抗戦にでジェーンは周りに実力を知られてしまった。

 きっと多くの誘いを受けたことは間違いない。


 エルダンの騎士になる以外で輝かしい未来が待ち受ける選択肢をジェーンは提示されている。

 なのにそれでもエルダン家に行くことに対して雑音は大きくならざるを得ない。


 騎士として仕えたいですと言っても今の段階ではアリアとジェーンの口約束にしかすぎない。

 これではもしかしたらジェーンに対して無理な引き抜きや嫌がらせのような行いがあるかもしれない。


 卒業してから紹介していたのでは行動が遅れる可能性がある。

 早めに紹介をして、ゴラックの許可を得ておけばエルダンの名前の元にジェーンを保護することができる。


 エルダンに行くことが当主であるゴラックの同意があるジェーンに無理な引き抜きをかけたり嫌がらせをすればエルダンに対する敵対行為になる。

 ここでジェーンを完全に引き込んでしまい、さらにはジェーンを守るために家に来るように招待したのである。


「なるほど……」


 思っていたよりも深い理由があったことにジェーンは驚いていた。

 ただ単にアリアに仕えてケルフィリア教と戦うつもりでいたのだが、アリアはそれ以外のことまでしっかり考えていた。


 自分よりも年下のアリアの完璧な配慮にジェーンはやはり自分の判断は間違っていなかったのだと思った。


「行くか行かないかの判断は今すぐ決めてください」


「えっ!?」


「出発は明日ですから」


「ええええっ!?」


 アリアはふっと笑う。

 ジェーンにとっていささか急な話になってしまったことは否めない。


 けれど仕方ないのだ。

 ただでさえ長くはない休みで学園対抗戦があった。


 だから学園対抗戦が終わったらすぐに帰るつもりであった。

 ジェーンに事前に伝えなかったのは学園対抗戦に集中してほしかったし、何か良い誘いがあってジェーンがそちらに行くならそれでも良いと思っていたからだった。


 でもどこか行くつもりもないのなら急ではあるが紹介しようと考えていたのである。


「……分かった! 準備するよ!」


 少し悩んだようなジェーンは大きく息を吐き出すと顔を上げた。

 その目には迷いはない。


 アリアについていくと決めたのだ。

 たとえ明日だろうと行くと言うのならジェーンも従おうと思った。


 どうせアカデミーにいても寂しく剣を振っているぐらいしかすることはないのだ。

 それなら先に未来の職場を見ていてもいい。


「それでは明日、私の部屋に荷物を持ってきてください」


「うん。帰って準備するよ」


「あと」


 立ち上がったジェーンにアリアは微笑みを向けた。


「家でも私に敬語はいりませんわ」


 煩わしい主従関係を今から強要するつもりはない。

 だいぶ砕けてきてくれたジェーンの今の方がアリアは好きだった。


「あ、うん。ありがとう、アリア」


「こちらこそ」

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