興味のある人
結局カールソンは負けた。
アリアの見立てではカールソンの方が僅差でオーラの扱いは上手かった。
しかしその微妙な差では剣の実力の差まで埋めることはできなかった。
最後のエキシビジョンマッチでもゲルダは話題をかっさらって学園対抗戦の戦いは終了した。
そして試合が終われば今度は労いや親睦を深めるためのパーティーが行われる。
みんなが戦った競技場にはテーブルが運び込まれてその上に料理が並べられていく。
細かなマナーなど気にしなくてもいいように立食形式での食事会となっている。
まずはシェルドンアカデミーの学園長が挨拶をするがその顔はニッコニコであった。
個人戦で自分のアカデミーが優勝したのだから当然。
シェルドンアカデミーでの開催でもあったし大喜びであった。
アリアたちも団体戦優勝、個人戦準優勝なのでかなりいい成績である。
聞くところによるとジェーンに対する誘いはもういくつも来ているらしい。
魅力的な提案もあったそうであるがジェーンはそれらを全て断ってしまった。
ジェーンがアリアを選んでくれたということは嬉しい。
出来る限りジェーンがアリアを選んだことを後悔しないようにはしたいと思う。
しかし今アリアが気になっているのは何よりもゲルダであった。
忘れもしない。
黒いオーラの男がいなければ少なくともエリシアの首をはね飛ばしていただろう。
それにやはり回帰前の時でもあの黒いオーラの男は強かった。
剣術も知らない人生を歩んできたアリアが弱いということがあるのだけど全てのオーラを解き放って襲いかかったのに全く通じなかった。
実力の高さと黒いオーラを考えるとゲルダはピッタリとその条件に合う。
けれど回帰前の黒いオーラの男は顔どころか手も手袋をしていて肌すら見えなかった。
黒いオーラというだけではゲルダだとは決めつけられない。
それに他国にいるはずのゲルダがどうしてエリシアの側に付き従ってエリシアを守っていたのか。
そこから考えると黒いオーラの男はケルフィリア教、そしてゲルダもケルフィリア教である可能性が出てきた。
「アリア・エルダン嬢」
なんとか黒いオーラの男のヒントになりそうなものはないかと記憶を探ってみるけれど、常に静かに佇むのみで声だって殺される直前にわずかに聞いたものだけだった。
でも声の感じは近いと思いながらアリアが振り返るとゲルダがいた。
優勝して人に囲まれていたゲルダに近づくのは面倒でアリアは話しかけるつもりもなかった。
しかしゲルダの方からアリアに声をかけてきた。
いざとなったら割り込むためにディージャンとユーラがアリアの側に寄ってくる。
「僕の力、証明できましたか?」
動きやすい運動着から制服に着替え、ジュースの入ったグラスを持つゲルダは少し違った印象をアリアに与えた。
立ち振る舞いに優雅さがあって貴族っぽさも感じられる。
「ぜひとも興味を持っていただけると嬉しいのですが」
目を細めて笑顔を浮かべるゲルダは絵にもなりそうだ。
ディージャンやユーラだけではなく周りの視線がアリアにも向けられている。
人に囲まれて対応していたゲルダが急にアリアに話しかけたものだから何故なのか気になっている。
特に女性の視線が強い。
「……ええ、あなたに興味を持ちましたわ」
けれどアリアはそんな視線を気にすることもなく真っ直ぐにゲルダを見返して答えた。
ノラやカールソンがショックを受けた顔をしている。
アリアとゲルダの興味という言葉の意味は異なっているのだが、周りが想像する興味の内容をアリアの意味で捉える人はいない。
ゲルダを見つめるアリアの目も敵の正体を見極めようとするものだが、見方によっては熱っぽい視線をしているようにも見えるのだ。
「あなたのことを知りたくなりましたわ」
ゲルダが何者で、この先どうしてエリシアに関わっていくのか。
興味を持ったといえばそうなのである。
「学園対抗戦が今日で終わりなのが残念でなりません。もっと長ければ……あなたに僕という人を知ってもらえたのに」
当のゲルダもアリアの意図は気づかない。
「もしよければ……」
「俺たちはどうだった!」
「結構頑張ったと思うけど!」
ちょっと近寄りがたい雰囲気。
けれどそんな雰囲気をぶち壊してキーリオとコーリオがアリアに声をかけてきた。
ゲルダが力を証明して興味を持たれたというのなら自分たちはどうなのだとアピールする。
「興味ありませんわ」
「な、なにぃ!」
「俺は強かったじゃん!」
「俺が弱いみたいに言うなよ!」
さらりとキーリオとコーリオに答えたアリアであるが、内心では少し助かったと思った。
どうやってゲルダとの会話を切り上げようか悩んでいたのでいい乱入だった。
「なんだお前ら! アリアに近づくな!」
ゲルダは一定の距離を保ってくれたがキーリオとコーリオはかなりアリアに接近するように話しかける。
なのでユーラが2人を睨みつけながら間に割り込む。
「なんだお前は!」
「俺はアリアのお兄ちゃんだ!」
「なに!? お兄様だと!?」
「お前らにお兄様と呼ばれる筋合いなんてないわ!」
ゲルダとの妙な静けさを持った雰囲気が一変して騒がしくなった。
「またいつか、落ち着いて話せるといいですね」
周りの状況を見てゲルダはアリアに微笑みかけた。
そしてシェルドンアカデミーの仲間たちのところに戻っていった。
強力なオーラユーザーのゲルダ。
味方にならずとも敵には回したくないとアリアは思っていたのであった。