見覚えのある色4
シェルドンアカデミーの学生たちが歓喜にわく。
集団戦もパッとした結果を残せず、個人戦も危ぶまれる中でゲルダの優勝はそのプライドを保つのに大きく貢献した。
これで学園対抗戦が終わり、というわけではない。
最後にエキシビジョンマッチという試合が残っていた。
選ばれた極小数の生徒たちが戦う試合なのであるが、エキシビジョンマッチに出るためにはある条件があった。
それはオーラユーザーであること。
エキシビジョンマッチとはオーラユーザー同士の戦いなのである。
なぜエキシビジョンなどと言われるのかというと参加人数が安定しないからである。
オーラユーザーの数はその時によって違う。
各アカデミーにオーラユーザーがいるようなこともあれば1人もいない年だってあった。
そのために固定の競技ではなくエキシビジョンという形でオーラユーザーの出場者がいる年にだけ行われるのである。
今回のエキシビジョンマッチの出場者は4人。
6つあるアカデミーのうち、4つから1人ずつ出ることになった。
アリアたちのロワルダインアカデミーから出ることになったのはカールソンであった。
なぜジェーンでないのか。
それはジェーンがオーラを習い始めるのが遅かったからである。
ヘカトケイが来てまともにオーラを教え始めたのであるがそれまでちゃんとしたオーラの先生はいなかった。
基礎的なオーラの制御は習ってもそれ以上はどうしようもなかった。
一方でカールソンはオーラを発現させたのも早かった。
カンバーレンドでオーラの先生を招いてオーラユーザーとしての訓練も受けてきたためにジェーンよりもオーラを扱えた。
他のアカデミーから出るオーラユーザーも1人であったので今回は1人を選ばねばならなかった。
なのでカールソンを出場者として選んだ。
代わりにジェーンには団体戦や個人戦に集中してもらったのである。
「また会いましたね」
「次戦う時はもっと先だと思ったんだけどね」
カールソンがエキシビジョンマッチを戦う相手はなんとゲルダであった。
個人戦で激しくぶつかり合った2人がここでまた戦うことにアリアも驚きを隠せなかった。
それよりもアリアが驚いたことが一つある。
「彼、オーラユーザーでしたの?」
ゲルダがエキシビジョンマッチに出場しているということだった。
エキシビジョンマッチに出場するということはすなわちオーラユーザーであるということだ。
個人戦でも優勝するほどの実力がありながら、それに加えてオーラユーザーでもある。
才能などという言葉で何かを片付けることは嫌いであるが才能を感じずにはいられない。
「そうらしいね」
いけすかない奴ではあるが実力は認めざるを得ないとノラは苦々しい顔をする。
「あら、学園長……?」
試合の競技場の隅にはアルドルトが立っていた。
「あれは保護する魔法を使うためだよ」
「保護するためですか?」
なぜあんなところにアルドルトがいるのか不思議そうな顔をしているアリアにディージャンが説明してくれた。
エキシビジョンマッチもダメージを吸収する魔法を使う。
けれどオーラユーザー同士の戦いは他に比べて大きなダメージが生じやすい。
通常のように道具に込めた魔法だけではダメージを吸収しきれずに大怪我をしてしまう可能性がある。
そのために道具にかけた魔法に重ねるようにして直接魔法使いが魔法で保護するのだ。
アルドルトは他のアカデミーの魔法使いと比べても最高峰の魔法使いである。
そのために生徒を保護する魔法の担当を任されているので競技場にいた。
「今度こそ負けませんよ」
「ふふ、確かにオーラを使うとまた勝負は分からないね。でも僕も負けるつもりはないよ」
カールソンの体から真白なオーラが溢れ出す。
美しい白いオーラをピタリとまとう姿に会場から驚きの声が漏れた。
「綺麗なオーラだね。じゃあ僕も」
カールソンのオーラを見てゲルダがニヤリと笑った。
オーラのまとい方を見ればただオーラを使えるだけの人ではなくオーラの鍛錬を重ねてきたのだと分かる。
「あれは……!」
「アリア、どうしたの?」
ゲルダがオーラを解き放った。
そのオーラを見てアリアは思わず立ち上がってしまった。
隣に座るユーラやノラが不思議そうにアリアのことをみるがそんなこと気にしている余裕などアリアにはなかった。
鼓動が早くなって周りのことが見えなくなっていた。
自分のオーラが漏れてしまいそうになるのを必死に抑える。
「黒い……オーラ」
ゲルダのオーラは真っ黒な色をしていた。
ケルフィリア教が無理矢理引き出す紛い物の濁った赤黒いオーラではない。
澄んだ輝きを持つ純粋な漆黒のオーラがゲルダのオーラの色なのであった。
アリアは思い出した。
回帰前の死の直前、アリアのことを陥れたエリシアに最後の足掻きで襲いかかった時にアリアの剣を邪魔してくれたフードの男がいた。
アリアの紅いオーラをまとった全力の剣を防いだのは真っ黒なオーラを持っていたのだ。
そう、まるでゲルダのオーラのような。
オーラの色は個々人によって違っているけれど似たような色がないこともない。
しかしこのような力強い漆黒のオーラを忘れるはずがない。
「あなた、何者ですの……?」