見覚えのある色3
その余裕の態度がまるでアリアに見せつけるための当て馬にされているような感じがしてカールソンは無性に腹が立った。
ゲルダの余裕の態度を打ち崩してやろうと攻め立てるがゲルダは崩れない。
「そろそろ僕も行くよ」
ゲルダの笑みが消えた。
次の瞬間攻守が入れ替わった。
カールソンの剣が弾き返されて、ゲルダが追撃を加える。
冷たいほどに鋭くて、一撃ごとにカールソンは大きく後退させられる。
細身に見えるゲルダであるが力も強かった。
「終わりだよ」
ゲルダの攻撃でカールソンの両腕が高く上がった。
不十分な体勢ながらよく防いだものであるが完全に大きな隙を晒してしまった。
「そこまで!」
ゲルダがガラ空きになったカールソンの胴を薙いだ。
容赦のない一撃。
ダメージを吸収する魔法の限界を超えたダメージにカールソンが後ろに転がっていく。
「ふふ、根性あるね」
相当痛いはず。
なのにカールソンはすぐさま立ち上がった。
多少ふらついて悔しそうに唇を噛んでいるけれど、自分の足で立っている。
負けた。
完全に負けたがこれ以上情けない姿は見せられない。
少し泣きそうな気分を堪えてカールソンはフラフラとゲルダの前まで歩いて手を差し出した。
「数年後なら勝負の行方は分からないかもしれないね」
「……次は負けません」
ゲルダも笑って握手に応じる。
貴族のお坊ちゃんかと思っていたけれど見直した。
剣の腕前も本物だ。
お遊びではなく本気で剣に向き合っている。
今はまだ差があるけれど数年後にはどちらが勝つのか分からないぐらいになるだろうと思った。
「……想像よりも強いですわね」
アリアも驚いていた。
カールソンの実力も高いがそれ以上の人はいるだろうと思っていた。
だがそれがゲルダで、あそこまで圧倒するとは思いもしなかった。
「少し失敗したかもしれませんわ」
力を証明して見せろだなんて言うんじゃなかったとアリアは思った。
これなら刺繍が上手い男性が好きとか適当な嘘でもついておけばよかった。
その後もゲルダは順当に勝ち進んだ。
準決勝での対戦相手はなんとキーリオだった。
こちらもまた油断ならない実力を持っていたのである。
しかし勝利したのはゲルダであった。
そして決勝。
「ジェーン先輩頑張ってください!」
「せんぱーい!」
送られる声援にジェーンは手を振って応える。
ジェーンは運が良かった。
有力な優勝候補が反対の山に集中して潰しあった。
ジェーンの対戦相手が皆弱いなどというわけではないが比較的戦いやすい相手が多かった。
ジェーンの方も冷静に戦いを進めて決勝まで勝ち上がってきた。
決勝ともなればみんなの応援にも力も入る。
「ジェーン先輩、勝つかな?」
「……どうでしょうね」
ノラの言葉に曖昧に返事を濁したアリアであるが、見立てではゲルダの方が強い。
おそらく同年代においてゲルダの実力はトップレベルである。
ジェーンも実力で言えば高い方だがそれでも敵わないだろうと見ていた。
でも応援はする。
できることならゲルダを倒してほしいとは思う。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ手合わせよろしくお願いします」
ジェーンとゲルダは互いに礼をして相手に敬意を払う。
剣を抜いて向かい合い、審判が試合の開始を宣言した。
試合の立ち上がりは静かなものである。
どちらも切りかからず睨み合いを続けたままジリジリと距離を詰めていく。
お互いの剣が届く距離にまで2人は近づいた。
それでもまだ睨み合いは続いていたのだが、きっかけは誰かのくしゃみだった。
動き出したのはジェーン。
鋭く切りかかり、ゲルダはそれを受ける。
互いに切りかかっては防御を繰り返す。
段々と切り返す速度が速くなっていく。
ゲルダの剣も重たく鋭くなる。
カールソンが大きく押されたゲルダの剣もジェーンは上手く力をいなして受け流していた。
しかしジェーンも正面から切り合って受け流すことが辛くなってきた。
切り合いを嫌がって先に変化をさせたのはジェーンであった。
切り合いの形が変化する。
今度は足を使って素早く動きながらの切り合いになった。
こちらの方がジェーンの戦い方になる。
細かく動きながらの戦いをジェーンは得意としていた。
けれどゲルダも負けてはいない。
同じく移動しながら戦いが続く。
ゲルダもさすがの速度であるがジェーンの方がわずかに速い。
「すごい……」
ノラが思わず感嘆の声を漏らした。
決勝にふさわしいレベルの高い戦いが繰り広げられている。
しかし徐々にジェーンは追い詰められていく。
ゲルダの方が力や技量も高く、剣のレベルも上なために長引くほどにジェーンが不利になっていくのだ。
「……参りました」
最後は一瞬だった。
なんとかしなければ押し切られると隙をうかがっていたジェーンが一瞬の隙を見つけて攻めた。
だがゲルダの隙はわざと作られた罠であった。
ジェーンの手から剣が飛んでいってしまい、両手を上げて降参の意を示す。
「勝者ゲルダ!」
審判がゲルダの勝利を宣言してワッと観客席が沸いた。
ゲルダとジェーンは握手をして互いをたたえ合う。
アリアは最後にまたゲルダと目があったような気がした。