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見覚えのある色1

 持ち帰りできるメニューも意外と豊富だった。

 ちょっとムカついていたし、テンションに任せて多めに注文してしまった。


 いざとなれば周りにいるディージャンとかユーラの口に詰め込もうと思う。

 それぞれ個包装してくれた料理を入れた紙袋を持って観客席に戻った。


「遅かったね、アリア」


「ええ、少しばかり面倒なものに絡まれまして」


「……大丈夫だったのかい?」


「こうして無事に戻っているではありませんか」


 アリアがため息をつくとディージャンは心配したように顔を覗き込んだ。

 バレてもいいのだけど人をぶん殴ってきたことがバレたら多少面倒かもしれない。


 女性にぶん殴られたと言って回るようなバカでないことを願うばかりである。

 アリアは席に座ると袋の中からサンドイッチを取り出す。


 綺麗に紙で放送されているサンドイッチを開けて一口食べる。

 こちらの食堂もなかなかレベルが高い。


 料理を待っている間にジェーンは一回戦を勝ち抜いていた。

 ついでにアリアをナンパしたアホ双子のうちの兄であるキーリオも勝ったらしい。


 勝った後誰かを探すように観客席をキョロキョロと見回していたらしいが、探していたのがアリアではないことを願うばかりである。


「カールソンの試合が始まるね」


 ディージャンに言われて競技場に目を向けるとカールソンが出てきた。

 アリアたちはカールソンが強いことを理解しているが周りから見ての期待値は高くない。


 なぜならカールソンはまだ若いから。

 出場者の多くが最高学年、あるいはその一つ下。


 カールソンは最高学年から見て二つ下にもなるので年齢的なところでもまだ未熟だと見られているのである。

 だが対峙している男子生徒には余裕は見られない。


 おそらく相手もカールソンの情報は事前に得ているだろう。

 年下なこともわかっているけれど実際に対峙してみると決して油断できない相手であることは感じるはずだ。


 カールソンの顔立ちに幼さがあまりないという話ではない。

 体つきもがっしりとしていて対戦相手とも遜色なく、まとう雰囲気に隙を感じさせない。


 年が下だからと油断していれば飲み込まれてしまうのはある程度真面目に剣の道を進んでいれば分かるのである。


「すまないが勝たせてもらうよ。君のような将来が明るい貴族と違って僕はこの戦いで将来が決まるんだ」


 カールソンは将来的に家を継ぐことが決まっている。

 安定した未来があるのだ。


 対して男子生徒は貴族の三男坊だった。

 家を継ぐことはまずない。


 自分で生計を立てる手段を今から考えておかねばならない。

 学園対抗戦で活躍して誰かに目をかけてもらえれば安心してアカデミーを卒業できる。


 年の違いによるプライドだけじゃない。

 将来もかかった大事な勝負の場所なのであった。


「……例え先輩の未来がかかっているとしても僕は手加減しませんよ。僕だって負けられませんから」


 ただカールソンだって簡単にやられてやるつもりはない。

 将来がかかっているからとわざと手を抜いてはきっと相手にも良い影響はない。


 それに今回は特に情けない姿は見せられない。


「……だって彼女が見てくれているから」


 カールソンは観客席の方に目を向けることはしないけれど、そこにアリアがいることは分かっている。

 アリアの前で情けない姿は見せたくない。


 例え負けるにしたって全力で戦う。

 ある意味カールソンもアピールをしようとしているのかもしれない。


 自分の戦う姿というものを。


「やああああっ!」


「はっ!」


 戦いが始まって男子生徒がカールソンに切りかかる。

 鋭く振り下ろされた剣をカールソンは受け止めて、近い距離での切り合いを演じる。


 おそらく剣術のレベル的には男子生徒の方が高い。

 けれどどうしようもないほどの差はなく、冷静に対処するカールソンを攻めきれない。


 体格的にもカールソンと男子生徒にはほとんど差がない。

 力で押し切ることも出来ないので切り合いが続く。


 大人になってしまえば多少の年齢差など関係なくなるがまだ子供のうちの年齢の差は実力にも大きく影響してくる。

 なのにカールソンは男子生徒にも引けを取っていない。


 こうなってくると違いはレベルに現れない剣術の細かな技術の差が出てくる。

 今押しているのはカールソンの方だった。


 レベルの差を覆して押し返せるほどにカールソンの方が細かいところで優れている。

 体の使い方、呼吸、駆け引きもカールソンの方がわずかに上回っている。


「クソッ!」


 カールソンの方が有利なことに男子生徒が焦りを覚えてしまった。

 なんとか押され気味の状況を打開しようと強めの一撃を放ったがカールソンはそれを受け流した。


 男子生徒の体が流れた隙に連続して攻撃を叩き込む。


「そこまで!」


 カールソンの剣が男子生徒の頭に直撃した。

 ダメージを吸収する魔法が込められたブローチが吸収できるダメージの限界を迎えて効果を失う。


 男子生徒は悔しそうに唇を噛んだがすぐに頭を振って気を持ち直しカールソンと握手を交わした。

 負けた後の態度も見られてはいる。


 紳士的な態度を取ることができるのも最後にできるアピールなのである。

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