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ナンパ2

「何でお前が騎士団長なんだよ! 俺の方が騎士団長にふさわしいだろ!」


「はぁ? どの口で言ってんだよ」


 同じ顔で言い争う2人。

 アリアから見ればどちらの口も同じ。


 もうどっちがどっちなのか分からないぐらいである。


「へっ、俺に勝ってから言えよ!」


「んだと! お前、俺に500敗してんだろ!」


「だけどこないだ勝ったから501勝、お前に勝ってるだろ?」


「なっ! ……じゃあこの子に決めてもらおうぜ!」


 弟のコーリオの方がアリアを指差した。

 もうすでに何の興味も失ったアリアはただただ遠くを見つめて無の目になっていた。


 さっさと離れてしまいたいのだけど体つきのいい男2人に行手を塞がれては通り抜けることもできない。


「この子にどっちが良いか聞いて選ばれた方が勝ちだ!」


「ふっ、俺に勝てると思ってんのか?」


「なんだよ? お前こそ選ばれる自信ないのか?」


「ああっ? やってやるよ!」


 やってやるよ、じゃないんだよ。

 勝手に兄弟喧嘩に巻き込んで、勝手に勝負の対象にするんじゃないとアリアは内心ブチギレていた。


「コイツらぶん殴って顔面ゴブリンにして差し上げようかしら……」


 思わず紅いオーラが漏れかけるのを必死に抑える。

 これから2人には個人戦が待ち受けているがこんなところでナンパしている余裕かましているのなら多少顔の形が変わるぐらい殴っても構わないだろう。


「さあ、俺とコーリオどっちがいい?」


「もちろん俺だよな!」


 アリアの呟きが聞こえていないキーリオとコーリオはもちろん自分が選ばれるのだと信じて疑わない目を向ける。


「私は……」


「その勝負、僕も混ぜてくれないかな?」


 とりあえず一発ぶん殴っておこう。

 ゆっくりと拳を握った。


 その時だった。

 後ろから声が聞こえてきて全員が声の方を見た。


「あら……」


「何だお前?」


「邪魔するな!」


 そこにいたのはゲルダであった。

 うっすらと笑みを浮かべるイケメンの登場にキーリオとコーリオが顔をしかめる。


 思わぬ乱入者にアリアも驚いた。


「学園対抗戦の間はいかなる争いも禁止です」


 シェルドンアカデミーで運営の一員となっているゲルダ。

 余計なトラブルを避けるために学園対抗戦の期間中は小さな争いでも禁じられている。


「ですが、僕もあなたに選ばれたい」


 ゲルダはアリアに近づくと手を取り、甲に優しく口づけをした。

 普通の女子だったならそれで卒倒してしまうかもしれないぐらい優雅な所作であった。


「ぐぬぬ、これは俺たちの勝負だ!」


「そ、そうだ! お前には関係ない!」


 流石の双子もゲルダの顔面偏差値の高さは認めざるを得ない。

 勝負に割り込まれてはたまったものでない。


「選ぶのはエルダン嬢だ。それとも僕に負けるのが怖いのかい?」


「うっ……」


「ぐぐ……」


 そんな風に言われては引き下がることもできない。

 アリアとしては引き下がって勝負などなかったことにしてもらえればよかったのにそうもいかないみたいだ。


「ではエルダン嬢、誰があなたのお眼鏡にかなうかな?」


「ゲルダ様、お顔をこちらに」


「何でしょう?」


 もう我慢の限界だった。

 アリアの求めに応じてゲルダがアリアの方に顔を寄せた。


 キーリオとコーリオはやっぱり顔かよという渋い顔をする。

 アリアはスッと手を上げた。


 バチンッ。


 乾いた音が鳴り響き、ゲルダの頭がグッと後ろに弾かれた。

 痛みと衝撃にゲルダは何が起きたのか理解できなかった。


「えっ?」


 アリアは中指を親指で押さえて力を溜め、一気にゲルダの眉間を指で弾いた。

 いわゆるデコピンというやつだ。


「くっ……うぅ!」


 女子がやるデコピンと侮るなかれ。

 額が割れたような痛みを感じて、ひょうひょうとしていたゲルダの表情も大きく歪む。


 泣きそうな顔をしておでこを押さえる。


「えっ……」


「ちょ……」


 そしてアリアはキーリオとコーリオの方を振り返った。


「ぐえっ!」


「うごっ!」


 殴打。

 パーではなく、グーで。


「私、人を見た目や肩書きだけで選ぶつもりはございませんわ。ただそれだけで選ばれると思うのなら、それだけで選ぶ女性を探しなさいな」


 アリアはキーリオとコーリオを押し退けて歩き出す。


「私はキーリオもコーリオも、そしてゲルダも選びませんわ。あなたの力を証明なさい。そしたら少しは考えて差し上げますわ」


 アリアは早足に歩いていく。

 よくよく考えるとやってしまった! と思い、逃げるようにその場を立ち去る。


「……惚れた」


「……俺もだ」


 殴られた頬を押さえてキーリオとコーリオはアリアが去っていった方向をぼんやりと眺めていた。

 ただ殴られていない頬もほんのりと赤くなっている。


「僕には分からない……」


「負け犬がなんか言ってるぜ」


「そうだな」


「ハァッ!? 君たちだって選ばれなかったじゃないか!」


 なんとなく余裕の態度を見せるキーリオとコーリオにゲルダがムッとする。


「ふんっ、俺たちだって顔の違いぐらい分かってるさ」


「どうせ勝てると思って割り込んできたんだろ?」


「なら同じく選ばれなくても俺たちの方の勝ちだ」


「なっ」


「い、意味が分からない!」


「それに俺たちはグーだ」


「お前はデコピン」


「「俺たちの勝ち」」


 訳の分からない理論。

 けれどゲルダの方は1人だし何を言っても響かなそうな2人にゲルダも反論を諦めた。


「……まあ、面白い人ではありますね」


 正直自信はあった。

 あまりなびいている感じはしなかったがこの場においては選ばれるだろうと思っていた。


 まさか選ばれることもなくデコピンされようとは思いもしなかった。

 初めてフラれた。


 不思議な感情が胸に沸き起こりゲルダは一人でニヤリと笑っていた。

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