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カラッポと嫉妬の塊2

 アリアは体が弱いことになっている。

 実際に弱かったのだけどよく食べよく体を動かして改善を図っている。


 自分の中のイメージではもっとひ弱な印象だったけれども動かしてみると意外と体は動いた。

 体が弱いことにかまけて動かさなかったから余計に弱っていたのかもしれない。


「ダメじゃないか!」


 ディージャンは慌ててアリアから木剣とタオルを取り上げる。

 そしてアリアの汗を優しく拭く。


 体が弱いアリアが激しく運動してしまうと倒れてしまうかもしれないと思った。

 先日も医者であるイングラッドを呼び出したばかりでとても体を動かしていいはずがないと。


 優しさが故の行動であるが今のアリアからするとありがた迷惑でさっさとお帰りいただきたい。

 このようにディージャンは善良な人であるのだけど空気が読めない。


 能力は意外に高く、家を継いでもやっていけそうな頭は持っているのだけどなんせ抜けている。

 長年雇った執事でさえ信用もできないような貴族社会にあってどうやったらこんな風に育つのか分からないほどディージャンはお人好しで性格が良いのだ。


 これが貴族の長子でなかったり、あるいは頭の切れる参謀でもいたのならその特性は人を惹きつける良いものであったのだが、ディージャンがいるのは貴族の只中である。

 嘘をつき、平気で人を騙し、足を引っ張るような世界にあって稀有な性質かもしれないがそれだけでは生き抜けないのだ。


 大きな信念もなくてただ水面を流される海藻のような人がアリアの中にイメージとしてあった。

 だからアリアはこの世界を生きていけなかったディージャンを頭カラッポと評した。


 ひどい言い方かもしれないけどディージャンが死んだ遥か後に思っていたことだし誰かに恨みもぶつけたかった。


「ありがとうございます、お兄様」


 ただお人好しで能力があるならうまく操ることができれば良い駒になる。

 今回は是非とも生き延びてもらいたい。


 アリアのために。

 ニコリと笑って印象は良く保っておく。


 上手く生かすにしても、失敗するにしてもアリアを酷く扱うことはない。

 敵対しないでいいなら敵対しないでおく。


「いきなりどうしてこんなものを?」


 ディージャンは木剣を優しく壁に立てかける。

 これまで体を動かすことなんてしてこなかったのにと不思議そうな顔をしている。


「もう倒れないように少し体を鍛えてみたいと思ったんですわ。


 体が弱いからと寝てばかりでは余計に弱くなってしまう……お兄様にご迷惑もかけられませんし少しは丈夫になりたかったんですの」


 節目がちに答えるアリア。

 ご迷惑云々は真っ赤なウソだけど大まかな内容はウソではない。


「そ、その心がけはいいと思うよ!


 ただいきなりこうしたものを振り回したら体に良くないから……そうだ、散歩から始めてみたらどうかな?」


「まあ!


 それはステキなアイデアですね、お兄様!」


 うっせぇ、こちとら屋敷の周りランニングしとんじゃいとは言わない。


「そっかぁ、アリアももっと元気になった僕と遊べるかな」


 アリアが元気そうでニコニコとしているディージャン。

 昔から妹が欲しかった。


 いつ頃からか弟との仲も良くなくなってきたこともあって可愛らしいアリアのことは気に入っていた。


「おいっ!


 厄介者が何をしている!」


 来たよ……とアリアは思った。

 出そうになったため息を我慢して声の方に顔を向けるとディージャンと同じ金髪碧眼の少年が向かってきていた。


 ディージャンが優しい温和な顔つきをしているとすればこちらの少年はややキツめ、良いように言えばキリッとしているとでも言えようか。

 コイツが嫉妬の塊である。


「また兄さんに取り入ろうとしているのか?


 御大層なこったな!」


 ディージャンが来ると大体セットでコイツも来る。

 アリアよりも1つ年上でディージャンの弟であるコイツの名前はユーラ。


 アリアは嫉妬の塊と呼んでいた。

 このディージャンとユーラの争いがお家滅亡の結果に繋がるのである。


 なぜかディージャンがアリアのところに来るとユーラもやってきてはアリアに言いがかりの文句をつけるのだ。

 ディージャンだけ来るなら別に何も思わず良い顔だけして対応するのにユーラが来るから嫌なのである。


 ユーラはアリアを厄介者と呼んで蔑んでくる。

 実際そうだから返す言葉もないのだけどそれを口にしていいものではない。


「この厄介……者…………え」


 回帰前ならそんなユーラの言葉に耐え忍び、ディージャンがユーラを諌めてくれるのだけど今はただやられているだけじゃない。

 ポロリとアリアの頬を涙が流れた。


 人知れず泣いてきたが涙を隠したところで助けてくれる人も気づいて慰めてくれる人もいない。

 なら人前で泣いてやる。


 もちろん悲しくともなんともないのでウソの涙だが男どもには分かるまい。

 シェカルテには分かっているけど泣いたことではなくこの早さで涙を出したことに驚いている。


 ハラハラと泣き始めたアリアに動揺を隠せないディージャンとユーラ。

 泣き出してしまったら悪役は完全にユーラの方だ。

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