ナンパ1
団体戦が終わったあとは個人戦が始まる。
この個人戦が全ての本番と言っても過言ではない。
昔は代表者によるリーグ戦なんて時もあった。
今はより多くの人の実力を見たいために1アカデミーにつき10人を選出、それに加えて団体戦などで活躍した中から個人戦に選ばれていない生徒を4人加えた64人のトーナメント戦となっている。
個人戦にはジェーンとカールソンが出場する。
もちろんゲルダも出場者の1人だった。
出場者だけを見ると多いようにも感じられるが剣を振っている人の数からしてみればほんの一握り。
スカウトする方、される方どちらの希望もあって、だいぶ増やした方である。
しかしあまり増やしすぎても威信が失われるのでこのぐらいが限界なのである。
個人戦に出場する生徒たちは気合が入っている。
個人やアカデミーとしてのプライドがかかっているだけではない。
この個人戦の結果では将来が大きく変わる生徒もいる。
スカウトに見られている以上は汚い行いはしない。
けれど負けそうでもギリギリまで食らいついてアピールしたり、不利な状況でも何とか逆転しようと苛烈な戦いを繰り広げることもある。
そうした必死さもまた学園対抗戦の醍醐味かもしれない。
「何人か注目の人もいるみたいだね」
「そうなんですか?」
「うん、もちろんジェーン先輩もその1人だよ」
もしかしたらこの中から側近を選ぶかもしれない。
そのために王子であるノラもある種スカウトにも近い目線で出場者を見ていた。
ノラ側の人から事前に情報共有がなされていて注目すべき出場者が伝えられていた。
団体戦でチームを率い、巧みな指揮と優れた能力を見せたジェーンも当然注目の出場者である。
ゲルダも注目されていた。
団体戦では他の生徒の実力が劣りチームとして負けてしまったけれど、ゲルダがいたから勝てた戦いもあった。
個人戦で細かな実力を確認したい人も多いだろう。
「あとはサンヨーロカシアアカデミーのキーリオとコーリオ、アストラムアカデミーのマーテとか……あのゲルダっていう人も注目されてますね」
認めたくはないがゲルダは高い実力がある。
ノラは面白くなさそうに少し唇を突き出すようにしてゲルダの名前を口にした。
こうして個々人の顔や名前を見るとアリアも知っている人が時々いる。
双子で活躍していたキーリオとコーリオは他国の人ながら名声が聞こえてきていた。
アリアの記憶では1人の女性を取り合って最終的に決別してしまったが今はとても仲が良さそうである。
「ぜひともジェーン先輩に頑張ってほしいものですわ」
「何か飲み物を持ってくるけどアリアもいるかい?」
「では何かジュースをお願いしますわ、ディージャンお兄様」
個人戦は不出場のディージャンがアリアに飲み物を持ってきてくれた。
シェルドンアカデミーの学園長が正々堂々戦うようになんて挨拶をして個人戦が始まった。
1回戦目は広い会場を二つに分けて2試合ずつ同時に行われる。
「……特に応援したい方もいませんわ」
同じユーケーンの生徒なら応援する気にもなるが今行われている試合は別のアカデミー同士のものだった。
「うーん、少し小腹が空きましたわ」
「何か持ってくる?」
「いいえ、自分で取りに行きますわ」
学園対抗戦期間中シェルドンアカデミーの方で食事も用意してくれる。
食堂で食べることもできるのだけど特別に観客席でも食べやすいような持ち運びもできる料理なんかも作ってくれている。
ちょうど暇であるし小腹も空いた。
知り合いの試合の時になれば席を外すのも悪いし今が良いタイミングだとアリアは席を立った。
アカデミーの中は閑散としている。
テスト期間が終わり、休みに入ったので家に帰っている人も多い。
そうでなくとも学園対抗戦の期間中は競技場付近は関係者以外立ち入り禁止になっているので当然である。
観客入れてもいいのではという意見もあるがそうなると見たいという人が殺到するし、警備などの問題も出てくる。
だから制限されるのもしょうがないことなのだ。
「へぇ、可愛い子がいるじゃないか」
「ほんとだ」
食堂に向かって歩いているとアリアは声をかけられた。
見ると同じ顔をした青年が2人。
全く同じに見える少しゴツめの顔には見覚えがある。
キーリオとコーリオであった。
「はじめまして、お嬢さん」
「暇なら少し話でもしない?」
「いえ、すぐに観客席に戻るつもりですので」
実力はありそうだがここでこの双子を引き抜くつもりはない。
さっさと食堂で適当なものを注文して戻ろうと思っていたアリアは双子の横を抜けようとした。
「まあまあ、ちょっと話すぐらいいいだろ?」
「そうだよ。俺はコーリオってんだ」
双子はスッとアリアの前に出て進路を塞いだ。
「俺はキーリオ。知り合っておいて損はないぜ? ここだけの話、俺はもう騎士としてスカウトされてんだ。つまり、俺は未来の騎士団長ってことだ」
大風呂敷を広げるものである。
騎士としてスカウトされていることはウソではないしても騎士団長としての地位を確約する馬鹿はいない。
自信家といえば聞こえもいいだろうが自分をよく見せようと話を大きく盛りすぎである。