学園対抗戦2
「……大丈夫ですよ」
ジェーンがチラリと観客席に視線を向けるとアリアと目が合った。
アリアが微笑むとジェーンも少し笑みを浮かべる。
思っていたほどの緊張もないようだった。
「誰を見ているんですか?」
「ふふ、もっとも見てほしい人よ」
「もっとも見てほしい人ですか?」
ジェーンの一つ下の男子生徒が笑顔を浮かべていることが気になって声をかけた。
こんな場面でもジェーンにはどことなく余裕を感じていた。
ジェーンが堂々しているので他の4人も安心感がある。
けれど笑みまで浮かべる相手は誰だろうと観客席を見た。
そこはロワルダインアカデミーの生徒もいる観客席付近。
まさかアリアを見ていただなんて思わず、その近くにいた国の関係者かなと男子生徒は思った。
さらには団体戦にはアリアの兄であるディージャンも出場している。
回帰前にはカラッポなどと思ったが意外とやるものである。
ディージャンもアリアの方を見て手を振るので優しく笑って振り返してあげる。
回帰前はビスソラダが生きていたし無気力に、何も考えずにいるように仕向けられたのかもしれない。
本気を出せばエルダンらしく剣の方面でも才能はちゃんとあったのである。
ちなみにユーラはまだ若いので実力不足で出られていない。
「さて、誇り高きユーケーンの力、見せて差し上げましょうか」
試合はトーナメント形式で行われる。
早速ジェーンたちの試合となった。
対戦相手はウラケヌスアカデミーというところだった。
相手は全員男性で女性のジェーンがリーダーと見るや余裕そうな表情を浮かべていた。
そして試合が始まった。
「まずはあの女を狙うんだ!」
戦略として1番弱いものを集中的に狙い、数的優位な状況を作り出すのは正しい。
けれどあくまでもその作戦はすぐに倒せる弱い相手がいる場合に有効なのである。
試合が始まった途端ウラケヌスアカデミーは一斉にジェーンに向かった。
「……愚かね」
作戦としては悪くない。
けれど相手の実力も正しく見抜く目を持っていないのにやる作戦ではなかった。
アリアは小さくため息をついた。
「はっ!」
確かに5人で1人を攻めるのは強いけれど5人でしっかり攻めるのにも高い連携と技術が必要である。
ジェーンはあえて一歩踏み込んで1人の剣を受けた。
「なっ!」
「おい!」
「邪魔だ!」
剣を受け流しながらジェーンは相手の服を掴んで自分の前に引き寄せる。
相手のうちのたった1人を大きく動かした。
それだけで瞬く間に相手5人全員の動きが止まった。
仲間を盾にされたような形になっては攻撃もできなかった。
「ガッ……」
本来なら回り込んだりタイミングをずらしたりと、1人を集中的に狙うにしても正しいやり方というものもある。
なのにすぐに倒せるだろうと馬鹿正直に5人全員正面から攻め立てるから失敗するのだ。
振り下ろしかけた剣を引いた相手に向かい、ジェーンが盾にした生徒の脇から剣を突き出した。
のどに突きが直撃する。
この学園対抗戦でもダメージを吸収する魔法が使われている。
けれども完全にノーガードで直撃したので吸収しきれなかった衝撃に吹き飛ばされた。
「後ろだ、バカモノ!」
ウラケヌスアカデミーの教員だろうか、怒号が飛んだ。
けれどもう遅い。
ロワルダインアカデミー側にもジェーン以外の4人がいる。
もうすでに1人倒されて数的優位を取られたウラケヌスアカデミーの生徒たちを囲むように動いていた。
「見るまでもない試合でしたわ……」
結局ウラケヌスアカデミーはまともに状況を立て直すこともできないままに倒されてしまった。
情けない戦い方に怒号を飛ばしたウラケヌスアカデミーの教員が顔を赤くして生徒に怒りの声を上げている。
あんなやり方では萎縮するだけで伸びもしないだろう。
だがしかしアリアもあれが自分の生徒がやった戦いだとしたら怒りたくなる気持ちも分からなくもない。
結果としては舐めていたジェーンに完全に手球に取られてしまった形となったのだから。
ジェーンへの注目はだいぶ高まった。
集中して狙われる場面でも堂々と先陣を切って戦い、活路を見出した。
ジェーンが巧みに戦ったからウラケヌスアカデミーは情けない結果になってしまったが、ジェーンの実力が劣っていて5人の攻撃に対応できなかったら結果はウラケヌスアカデミーの狙い通りになっていたことだろう。
一勝でも勝てれば面目は保てる。
見学に来ていたユーケーンのクラブ生たちもジェーンの勝利にホッとしていた。
「あら、あの方は……」
次の試合にはシェルドンアカデミーが出てきた。
その中にはアリアたちを案内してくれたゲルダも出場していた。
「なんだかあいつ……アリアのこと見てませんか?」
知っている顔なので見ていたらゲルダと目が合ったようにアリアは感じられた。
隣のノラが普段しないような眉間にシワを寄せた顔している。
ゲルダが爽やかに笑うと観客席から黄色い声が上がる。
「アリアはああいうのが好みですか?」
「ゲルダですか? ……まあ顔はいいんじゃないでしょうか」
アリアから見ると少しウソくさい笑顔には見えるが良い顔面をしていることは否定できない。




