いつか隣で2
トゥージュとクロードペアも目立ったミスなくダンスを終えた。
そしてとうとうアリアとノラの番が来た。
ノラがアリアとも前に出てきたことに周りがざわつく。
パメラとダンスしたことは頼まれたからだったのだろうと周りもあっという間に察した。
「……少し背が伸びましたか?」
「そうだね。ようやくアリアと並んだかな?」
迷子になっていた時はアリアよりもノラの方が背は低かった。
だからまだまだ小さい子なのかもしれないと思っていたのに、改めて正面に立ってみるとノラの目線が同じ高さになっていることに気がついた。
少しイメージでノラを見ていたのかもしれない。
回帰前の大人のノラはアリアよりも普通に身長が高かった。
優しい目をしてアリアのことを見ていたノラの姿をふと思い出した。
あの時と同じような優しい目をしている。
「それでは始めますよ」
周りの目を気にすることもなくノラはアリアだけを見ている。
先生が手拍子を始めてアリアたちも踊り始める。
「……危ないことをしたんだって?」
「危ないこと、とは何ですか?」
「僕は王子だよ? 望まなくとも僕の耳には色々な情報が入ってくるんだ」
大きな事件があったことを一般的な貴族たちに隠しても王族にまで隠すことはできない。
ノラの耳にもキュミリアの襲撃事件のことは入っていた。
アリアやカールソンのことまで詳細には聞かされていないけれど事件のタイミングとアリアが休んだタイミング、そして一部の生徒も関わったという情報から考えればアリアが関わったことは明白だ。
それにユーケーンに入ればアリアやカールソンが急にいなくなったことは噂になっていた。
何が起きたのかアリアたち3人は言葉を濁していたけれど事件があったことを知るノラにとっては事件と結びつけることは難しくない。
ノラは少しだけ、悔しいと思った。
アリアが危険なことに巻き込まれて休まねばならなくなったようなことは心配だった。
ノラを助けてもくれたことからアリアが正義感も強い女性なのであると分かっていたから何かがあればきっと駆けつけると信じている。
でもそんなアリアの隣にいたのは自分じゃない。
その時ユーケーンにはいなかったのでしょうがないのかもしれないけれどアリアと共に行ったのはカールソンだった。
アリアと不思議な噂になっているカンバーレンドの公子。
オーラユーザーでもあり、人望もある、イケメン。
「……困ったことがあったら僕に言ってよ。僕も一応王子だ」
アリアもノラもダンスのレベルは高い。
たとえ会話をしながらでもダンスは澱みなく続けられる。
「アリアには、恩もあるからさ。僕ができることなら何でもする。アリアの力になるからさ」
「急にどうなされたのですか?」
ノラの中にあった葛藤はアリアが知る由もない。
アリアからすれば急にノラが思い詰めた表情をしているように感じられた。
「……もしカンバーレンドとの噂が嫌なら僕がなんとかしてあげるから」
「カールソン様とのお噂ですか?」
アリアがカールソンを名前で呼ぶことにノラは少しムッとした。
「ふふっ、ありがとうございます」
回帰前もノラはこんなふうにアリアの噂に気をつかってくれた。
アリアは目を細めて笑う。
回帰前も、今も、ノラがどんな思いを抱えていたのかアリアは知らない。
「ですが大丈夫です」
以前もそう答えた。
「えっ……」
「所詮噂は噂。私はそんなことでは揺るぎませんわ」
ただ回帰前はノラに迷惑をかけたくなくて断ったのだけど今は違う。
アリアはアリアである。
芯を持ち、どんな噂にも揺るがない。
噂したければするがいい。
カールソンに迷惑になるのなら訂正もするけれど利害が一致している間は何を言われていても気になどしない。
「ノラは優しいですね……」
「そ、そんなことないよ……」
アリアが優しく微笑んでノラは頬を赤くした。
手放しの優しさではない。
下心がある。
ノラはそんな下心がバレたくなくてアリアから目を逸らしたのであった。
「はい、そこまでです」
レベルの高い2人が踊れば初級のダンスなど問題もない。
気もそぞろにダンスを踊っていたけれど完璧だった。
「本日はありがとうございます、ノラ」
パメラのことも含めてアリアは微笑んでお礼を告げる。
「……うん。またいつでも頼ってよ」
次はカールソンではなく自分が。
何かと戦うアリアの隣に立てたならとノラは思っていた。