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授業もちゃんと受けてます2

 回帰前は知らなかったのだけどトゥージュは歌を歌うのが好きらしくアカデミーでも歌唱の授業を取っていた。

 そういえば機嫌がいい時にはトゥージュは軽く歌を口ずさんでいたことがあったとアリアも思い出していた。


 それだけでも結構上手くてこっそりと耳を傾けていたものだ。

 まさか授業まで取っているとは思いもしなかったが考えてみればピッタリの授業である。


 不安がないかと聞かれれば少しだけ不安なことはある。

 普段からトゥージュの声は小さめなのだ。


 それにアリアとパメラは慣れてきて普通に話せるようになっているが他の人とは話す時に緊張してしまう傾向がある。

 人前でちゃんと歌えるのかアリアには心配なのである。


「うん、大丈夫そうかな」


「人前でも歌えるのですか?」


「歌う前は緊張するけど……歌い始めたらそんなこと、気にならなくなっちゃうんだ」


 恥ずかしそうにモジモジとしているトゥージュであるが歌う時だけは人の目があっても気にならなかった。


「トゥージュの歌声聞いてみたいものですわ」


「は、恥ずかしいよぅ」


「歌い始めてしまったら気にならなくなるのでしょう?」


「もう……」


 歌い始めるまでの緊張はどうしようもない。

 アリアならきっと笑うようなことはない。


 絶対に褒めてくれる。

 褒めてくれると分かっているからむしろ恥ずかしい気持ちもあった。


「今度……ちょっとだけですよ」


「うふふ、楽しみにしておりますわ」


「終わったぁ〜!」


 あと少しだと口も動かさず手を動かしていたパメラが両手を高く上げた。

 ようやく刺繍を終えたのである。


 見てみると多少ぶちゃいくではあるがハンカチにちゃんと花が咲いていた。

 刺繍を始めた時よりはかなり上手くなっている。


 これぐらいなら課題として合格ももらえることであろう。


「まだですよ」


「えっ!?」


「ちゃんと誰のか分かるようにお名前も入れなきゃダメなんです」


「えぇ〜」


「それもすぐですからやっちゃいましょう」


「くぅ……頑張る!」


 慣れていれば名前ぐらいちゃっちゃと入れられる。

 少し苦労はあったけれどパメラもハンカチに自身の名前を刺繍して課題は完成となった。


 次回の授業の時に忘れずに持っていって提出すれば基礎刺繍の単位はもらったも同然である。


「お腹すいたー!」


「そうですね。それじゃあ食堂に行きましょうか」


「この時間なら空いてるでしょうしね」


 パメラの刺繍が完成したのでお昼を食べに3人で食堂に向かうことにした。


「あと問題なのはダンス……ですかね」


「うっ!」


 ダンスという言葉にパメラがぎくっとなる。

 刺繍だけでなくダンスも結構壊滅的だったパメラ。


 アリアも何度足を踏まれたことか分からない。

 努力家ではあるので口では文句を言いながらも頑張ってそれなりに形にはなっていたけど苦手なことに変わりはない。


 それとパートナー問題もある。


「女の子同士でもオッケーならいいのにな〜」


 普段の授業では男子が少ない影響で女の子同士のペアでダンスしてもいいのだけれどテストでは男女ペアで踊らねばならない。

 どうするのかといえば2回目を踊ってくれる男子を見つけねばならないのである。


「アリアとトゥージュはもういるしな〜」


「私も決まったとは言いがたいですわ」


「ぜーったい踊ってくれるじゃん? 文字通り王子様が」


 パメラが言うアリアのパートナーとは当然ノラのことである。

 毎回ノラはアリアのことを恭しくダンスに誘うので周りでも少し噂になっていた。


「ノラスティオ様がパメラとも踊ってくださればいいのに」


「えっ?」


「そうすれば問題も解決いたしますわ」


「いやいやいや……そんなのダメじゃない?」


 アリアの思わぬ提案にパメラは慌てる。


「ダメってことはないでしょう。それにノラスティオ様はダンスがお上手でいらっしゃいますわ」


「それなら余計に私なんか……」


「ダンスが上手な殿方がパートナーなら上手くダンスを引っ張ってくれるものですわ。パメラが下手くそでもちゃんと見えるように踊ってくださるのです」


「んー、まあ話もわからなくはないけどさ」


 でも、とパメラは思う。

 ノラの目にはアリアしか映っていない。


 そんな中で踊ってくれと言っても踊ってくれるか怪しいものである。

 それにやっぱりノラと踊ることになったら目立つ。


 そうなると自分の下手くそさが際立ってしまうのではないかとパメラは苦い顔をする。


「アリア!」


「あら? ノラスティオ様、ごきげんよう」


 食堂に着くとそこにノラがいた。

 アリアを見つけて嬉しそうに寄ってくるノラにお淑やかに挨拶する。


「どうかなさいましたか?」


「ええと、前回いなかったから」


「ああ、申し訳ありません」


「そ、そうじゃなくて! 体はもう大丈夫?」


「はい、ご心配おかけしました。もう大丈夫ですわ」


「よかった」


 ホッと胸を撫で下ろすノラの視線は優しい。

 他の女子たちがチラチラとノラの顔を不躾に見てしまうほどノラは柔らかい笑みを浮かべている。


 アリアはそれが普通のことだと思っているけれど普段のノラはそんなこともない。

 笑顔は浮かべているが今のような柔らかさはなくどこか他人行儀な笑顔なのである。


「……よかったですね、パメラ」


「へっ?」


 やっぱりアリアしか見えてないな、なんて思ってたパメラもアリアしか見えてなかった。


「ノラスティオ様がパメラとも踊ってくださるそうですよ」


「え……ええええっーーーー!?」


 パメラがぼーっとしている間に会話が進んでいた。

 ノラはアリアにダンスのテストで一緒に踊るように申し込み、アリアは受け入れる代わりにパメラとも踊ってほしいと提案していた。


 アリアと踊れるならとノラは提案を受け入れた。

 ノラが受け入れた以上パメラが断るのも失礼になる。


 絶対に足は踏めない。

 遠い目をしてパメラはノラによろしくお願いしますと頭を下げたのであった。

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