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カラッポと嫉妬の塊1

『剣術のレベルが上がりました。


 剣術スキル1→2』


『体術のレベルが上がりました。


 体術スキル2→3』


『走法のレベルが上がりました。


 走法スキル1→2』


「……レベル1つ上げるのも楽ではありませんわ」


 ただ楽しい。

 回帰前は刺繍スキルは上げやきゃならないもので、最初の頃は手をよく針で刺したりして泣きながら早く上がってくれと勤しんだ。


 今は上げたくて上げている。

 上がっていくと自分の変化を感じ、やったことが身になっていく快感がある。


 レベルが上がった表示が啓示されるたびに喜びが胸に湧き起こる。

 刺繍もある程度なら楽しいからいいのだけど。


「お嬢様、タオルです」


 アリアは今屋敷の裏にある中庭で素振りをしていた。

 アリアは金がなく、シェカルテが剣を持ってくることは不自然すぎるのでイングラッドに命令してこっそりと持って来させた。


 なぜなのか知らないが念押しするまでもなくイングラッドはアリアに大人しく従った。

 若干の怪しさもあるがお金もある成人の男性の協力者ができたのでよしとする。


 なぜ素振りをしているかといえばもちろんスキルレベル上げのためである。

 屋敷の周りを走ったり見よう見まねで木剣を素振りしたりしていた。


 レベルが1つ上がるぐらいでは変化は分かりにくいが0から1では変化も感じられた。

 低レベル帯なら教えがなくてもなんとなくの知識でマネしても上げられる。


「ありがとう、キ○タマ」


「それやめていただけないでしょうか?」


 大きな胸をオークのキ○タマに見立てるなんて非常に下品な話だ。

 ただ全く誰もしない話でもなく酒場で酔った連中が女性にバレないように胸の話をする隠語として使われることがあるのだ。


 アリアは時々シェカルテをキ○タマと呼ぶ。

 これは自分の立場を忘れるなよという警告であって決して巨乳への嫉妬ではない。


 そう、決して巨乳への嫉妬なんかではないのだ。

 そこを間違えてはいけない。


「あなたの忠誠心を認めたらやめてあげますわ」


「まだお疑いですか?」


「下手なウソを重ねて誤魔化そうとした過去は消えませんもの」


「……誠心誠意お仕えいたします」


 どの道シェカルテはアリアに弱みを握られているしやることは変わらない。


「あなたの弟の調子はどうかしら?」


「だいぶ安定しました。


 もう熱も出ず、同年代の子と同じぐらいに元気になりました!」


 カインはオーラの超基礎的なコントロールを覚えてすっかり元気になっていた。

 オーラのせいで弱っていたがオーラのコントロールを覚えてオーラに蝕まれなくなるとむしろ同年代の子供よりも丈夫であると言っていい。


 アリアの教えを守って体の中でオーラを巡回させているカインはみるみる体調が良くなっていたのである。


「そう、ならよかったわ。


 今度ここに連れてきなさい」


「分かりました。


 あの子もお嬢様に感謝を伝えたいと言っていましたので」


「命を助けてあげたのだから当然ですわね」


 感謝されるのは嫌いじゃない。

 ぼんやりとした意識の中での約束だったし改めてアリアのために力を使ってくれると今一度確かめておきたい。


 本当ならシェカルテもイングラッドもカインも魔法による契約を結びたいぐらいだが魔法による契約もタダじゃない。


「アーリア!


 あれ?


 いないのかい、アリア!」


 体を動かしていると調子が良い。

 もうちょっと素振りでも続けようと思っているとアリアを呼ぶ声が聞こえてきた。


 まだ声変わりをしていない男の子の声。

 その声にアリアは一瞬にして嫌な顔をした。


「チッ……」


 それどころか盛大に舌打ちまでする。


「ディージャンおぼっちゃまですね」


「カラッポ……そういえば敵ではありませんでしたわね」


 カラッポと嫉妬の塊。

 アリアには2人の兄がいた。


 正確には兄ではなく従兄弟であるが一応兄と呼んでいた。


「おっかしいなぁ?


 こっちかなー?」


 声が近づいてくる。

 このまま立ち去ってくれるなら居留守を使おうと思っていたアリア。


 こっちに来るなと思って渋い顔をしているのをパッと穏やかな表情に戻す。


「アリア!


 こんなところにいたのか!」


 金髪、碧眼のいかにも貴族な少年。

 アリアよりもいくらか年上で人懐こい笑顔を浮かべて裏庭にいるアリアには向かって大きく手を振っている。


「お兄様!」


 アリアも笑顔で手を振る。

 先ほどまでの顔を見ていたシェカルテからすると、よくそんな爽やかな笑顔を浮かべられるなと思うがそれは顔に出さない。


 彼はアリアの従兄弟であるディージャン。

 アリアは嫌そうな顔を浮かべたがディージャンは悪人ではない。


 むしろ善人。

 回帰前の人生でもディージャンはアリアにも優しく、こうして時折遊びにもきてくれていた。


 小さい頃はそんなディージャンをありがたく思っていたし尊敬できる兄だと思っていた。

 彼が家を継げは自分の待遇も少しはマシになると期待していた時期もあった。


 ただ成長して改めて考えた時にアリアのディージャンに対する評価は一変した。


「何をしていたんだい?


 ……おや、それは?


 まさか体を動かしていたのかい?」


 ディージャンがアリアが手に持った木剣を見て驚いた顔をする。

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