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闇を飲み込む仲間たち2

 まだ若いカールソンにそのことは教えていなかったのだろう。


「ど、どうしてアリアがケルフィリア教と戦うことがあるんですか」


 聖印騎士団が何なのかは理解したがどうして自分よりも年下で貴族令嬢として恵まれているアリアがケルフィリア教との戦いに身を投じることがあるのか分からない。


「……ケルフィリア教はそこら中に潜んでおりますわ。そして奴らは目的のためなら手段を選ばない。人の人生を狂わせてもなんとも思わない連中なのですわ」


 ジェーンはキュミリアのことを思い出した。

 キュミリアは狂っていた。


 あるいは狂わせられたのかもしれない。


「今ジェーン先輩から見たら私は何の変哲もない令嬢に見えるかもしれませんが私もケルフィリア教に全てを狂わされてここにいるのです」


「アリア……」


 悲しみ、そして怒りを宿したアリアの目で見られてジェーンはそれ以上何も聞けなかった。

 才能に恵まれた令嬢がお遊びのように首を突っ込んでいるのではない。


 アリアにも深い過去があるのだとジェーンは察した。


「アリアの過去に何があったのかはいい。大切なのは今と未来だ」


 重たい空気を切り裂いて立ち上がったカールソンがアリアの側にひざまずく。


「こうして話してくれたってことは少しは僕のことを信用してくれたってことでいいのかな?」


 なぜか目を離せない人。

 他の令嬢とは明らかに違うアリアからどうして目が離せなかったのかようやく分かった。


 アリアは戦っている。

 時に他者を寄せ付けず孤独に、強い決意の下に立ち向かっているのだ。


 何と戦っているのかは分からなかったけれどカールソンはアリアがそうした強い意思を持っていることを感じていた。

 同時に何かに立ち向かっているアリアを護りたいと思ったのかもしれない。


 どこか心を開いてくれなかったアリアが己の事情を話してくれた。

 そのことにカールソンは妙な嬉しさを感じずにはいられなかった。


 まだ隣に立って戦えているとは言えないけれど遠くをゆくアリアに少しだけ近づけたような気がする。


「紅き君よ、僕を利用してくれ。カンバーレンドは反ケルフィリア教だ。君の目的とも合致する」


 カールソンはアリアの手を取って、そっと口づけする。


「君が何を背負っているのかは僕には分からない。けれどこれから背負おうとしているものがあるなら僕も共に背負おう」


「……カールソン、ありがとう」


 正直な話、アリアはカールソンがどうしてそこまでしてくれるのかは理解できない。

 けれど自ら巻き込まれてくれるというのならオーラユーザーであるカールソンを受け入れない理由などない。


 普通の令嬢ならばこんな風に近づかれるような発言に頬を染めるだろう。

 けれどアリアは目を細め、妖しく笑う。


 口づけされた指をカールソンの頬に這わせる。


「あなたがそうしてくれるというのなら断る理由はないですわ。あなたが味方でいてくれるというのならこれほど心強いこともない」


 指先で顎を持ち上げ、目を覗き込む。

 アリアの目に吸い込まれそうな気分になるカールソン。


 キスでもしそうな、甘いのとはまた違うビターな雰囲気にカールソンの心臓が勝手に高鳴る。


「これ以上はいかんぞ」


 アリアとカールソンの間に杖が差し込まれた。

 やったのはアルドルトである。


 アリアは孫ではないが孫のように可愛く思っている。

 何がおかしくて孫娘が目の前でキスする様を見ていなければならないのだ。


 もちろんアリアにそんなことするつもりはないのだけどそんな雰囲気があった。


「アリア……いやアリア、様?」


「えっ?」


「私も……アリア様を手伝わせてください!」


 急にジェーンもカールソンの横にひざまずく。

 熱に浮かされたような気分ではある。


 尋常ではない雰囲気の中で流されるように決意したことは否めないかもしれない。

 けれどジェーンも思った。


 キュミリアのような人をもう出してはいけないと。

 そしてそのために戦うアリアの背中はとても大きく、一種の憧れのようなものすら抱いていた。


 アリアに従う道が正しいのかジェーンにはまだ迷いがある。

 でも共に歩まねば正しいのか、間違っていたのかも分からない。


 ならば共に歩んでみようと思った。

 共に歩んでみたいと思うのだから、間違っていても後悔はしない。


「よろしいですがその様付けはおやめになってください」


 いきなりジェーンが様付けで呼び始めたら周りも困惑するだろう。

 アリアとしてもなんだか奇妙な感じがある。


「アカデミーにいる時は普通でよろしいですわ」


 卒業してジェーンを護衛騎士として雇うことになったら様付けでもいいかもしれないが今はそうしなくても構わない。


「ふん……女王様とでも呼ばれた方がふさわしいかもね」


 オーラユーザーが2人もひざまずく光景などなかなか見られるものではない。

 お金などの俗物的な関係からそうしているのではなく、2人がそうしたいからそうしている。


 ある意味で威厳とでも表現すればいいのだろうか。

 まるでアリアがクイーンかのようにヘカトケイには感じられた。


 揺るがぬ信念を持つ者には共感し、ついていきたくなるものだ。

 最強の師匠を持ち、オーラユーザーの仲間を持つアリアは下手すればそこらの王様よりも凄いのではないか。


「さすがアリアじゃの」

 

 アルドルトはほんわかとその光景を見て笑顔を浮かべていたのであった。


ーーー第三章完ーーー

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