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最後の裏切り者3

 そんな高価な杖をへし折られた動揺が広がるホーンドは少し遅れて気がついた。

 キュミリアの手に白いオーラがまとわれていることに。


 キュミリアはオーラが使えない。

 しかもケルフィリアの力でオーラを無理矢理発現させた影響でもはや純粋なオーラを発現させられる体ではなくなった。


 なのに真っ白なオーラが見える。


「うっ!」


 頭の中で考えが駆け巡って動きが止まったホーンドの腹にキュミリアの拳が突き刺さり、ホーンドが無様に転がっていく。


「ふう」


「すまんのぅ。熱かったじゃろ?」


「そうですね。でも僕にはオーラがあるので」


 頭にかぶせられた袋を取ってみるとそれはキュミリアではなかった。

 袋をかぶせられていたのはカールソンであった。


 ホーンドが裏切り者であることは様々な証拠から分かっていた。

 ただどの証拠も決定的とは言えず、限りなく黒に近いグレーのようなものだった。


 拘束してもホーンドが素直に罪を認めるはずがなく、下手に動いたら逃げられてしまう可能性もあった。

 となると次にホーンドがどう動くかが問題である。


 このままアカデミーに残るのか、逃げるのか。

 逃げたなら逃げたで黒確定となるが追跡も簡単なことではない。


 残ったら残ったで警戒し続けなきゃいけないのも面倒である。

 そこでアリアはホーンドがキュミリアのことを狙うのではないかと予想した。


 ビスソラダすら消そうとしたケルフィリア教がガッツリと関わっているキュミリアのことを放置しておくはずがない。

 外部の人間や生徒ではキュミリアを消すのは無理だと言っていい。


 ならばホーンドが動くしかない。

 流石にキュミリアが死んでしまえばホーンドも疑いを避けられないだろうからキュミリアを消して逃げるつもりだろうというのがアリアの予想だった。


「ぐっ……本物のキュミリアは……」


「もちろんおるぞ? ただこの部屋ではないがな」


 本物のキュミリアも拘束している。

 キュミリアは学長室にある会議室の方に捕まっていた。


 当然のことながら監視役もいる。

 もし仮にホーンドが計画を見抜いて本物のキュミリアの方に行っていたなら相手することになったのはヘカトケイになっていただけである。


「大人しく降参することですね」


 カールソンはスッと立ち上がる。

 手足を拘束されているように見えて実は拘束なんてされていなかった。


 火球同士がぶつかって熱波が発生した時にはカールソンが無事かとアルドルトもヒヤリとしたものだがオーラで体を守ったカールソンは平気だった。

 カールソンはイスの後ろに隠してあった剣を取る。


 訓練用ではないちゃんとした剣である。

 杖も折られたホーンドは完全に追い詰められた。


 折れた杖でも魔法を使うことは出来るけれど全力には及ばなくなる。

 全力でもアルドルトに勝てないのに杖が折れた今完全に敵うはずもない。


 カールソンは剣を抜いてゆっくりとアルドルトの側に歩いていく。

 動けないキュミリアならともかく剣を持つオーラユーザーのカールソンを人質とするのは難しい。


 ホーンドに勝ち目はなくなった。


「…………」


 怒りや悔しさなどホーンドの中で感情が渦巻いて手が震えている。

 いくら考えを巡らせても窮地から脱する方法など思いつかない。


「くそっ!」


 ホーンドは折れた杖をアルドルトに投げつけた。

 折れた杖は情けない音を立ててアルドルトの張ったシールドにぶつかって落ちる。


「捕まるぐらいなら!」


 杖を投げたホーンドは懐に手を入れて何かを取り出した。

 そしてそれを口に入れようとして、手が動かなくなった。


「な、なに……」


「お主……とことんワシのことを舐めておるのぅ」


 ホーンドが手にしていたのは黒い錠剤。

 自決用の毒薬であった。


 しかしアルドルトが念属性の魔法でホーンドの体を拘束して飲むことを防いだのであった。

 アリアなら剣一本動かすのも精一杯であるがアルドルトはホーンドが指一本も動かせないほどの力の魔法で全身を拘束していた。


 ホーンドの意思に反して黒い錠剤を持つ右手が口元から勝手に離れていく。


「ああああああっ!」


 ホーンドの腕がねじれて骨が砕ける音が響く。

 黒い錠剤が床に落ちて割れた。


「こ、殺せ……」


「ホッホッホ、殺せ、じゃと?」


 アルドルトがスッと手のひらを上げるとホーンドの体が浮き上がる。


「殺したいほどに思うがワシはお主を殺さん」


 浮き上がったホーンドの体はアルドルトの前にまで連れてこられる。


「知っていることを話してもらおう。そしてお主は残りの人生を暗い牢獄で過ごすのじゃ。反省しようと、死にたいと思おうと抜け出すことの出来ない牢獄からな」


 聞いたこともないほど重たい声。

 普段は優しさの塊のようであるアルドルトの本気の怒りを見て、カールソンはゾクリとしたものを感じずにはいられなかった。

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