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最後の裏切り者2

 高い熱を帯びた火の玉は真っ直ぐにアルドルトの方に飛んでいく。

 アルドルトは突然の攻撃にも慌てることがなく、わずかに持ち上げた杖を床に打ち付ける。


 アルドルトの直前まで迫った火の玉が何かにぶつかったように形を歪めて弾けて拡散していく。

 目を凝らすと分かる。


 アルドルトの周りにうっすらと魔力の壁が張られている。

 魔法によるシールド。


 見る人が見れば驚くだろう短い攻防。

 どちらも魔法の発動が早く、それでいながら簡単には防げないような威力の火の玉とそれを防ぎ切ったシールドは魔法使いが見れば興奮を隠せなかっただろう。


「いつから気づいていた?」


「ホッホッホ、疑ったのはワシではないよ。じゃが何もかもタイミングが良すぎた」


 キュミリアがアルドルトを襲撃したタイミングで主要な戦闘系の教員が魔物探しのためにいなかった。

 調べてみると通報者は分からないが普段はあまり動くことを好まないホーンドが探しにいくべきだと主張していた。


 ただそのことだけがホーンドを疑う理由ではない。


「なんじゃったか……トピアじゃったかのぅ」


 アルドルトはあごひげを撫でながら目を細めてホーンドを見る。

 しかし目の奥は冷たく一切笑っていない。


 アルドルトが口にした名前にホーンドがピクリと反応を示した。

 タイミングが良過ぎるという点から考えるとアルドルトの秘書も務めているミチュトの不在もある。


 当初はミチュトが不在だから狙ったのではないかと思ったけれど発想を転換してみた。

 ミチュトが不在になるタイミングを作り出したのではないかと考えたのである。


 調べてみるとミチュトの夫はお手伝いさんを雇っていた。

 日中のハウスキーパーを担当してくれていたのだが仕事の一つとしてミチュトの夫の夕食を作っていくことも含まれていた。


 そこに弱い毒を忍ばせていたのである。

 お手伝いさんのトピアもすでに拘束してある。


 どのような毒を用いたのかも分かったので解毒薬でミチュトの夫も一気に回復した。


「薬学に秀でたミチュトが気付けないほどの毒。雇われのハウスキーパーに簡単に手に入れられるものではない。

 トピアの家から見つかった毒を調べてみるとなかなか珍しい素材も必要であった。お主が定期的に購入しているようなものがな」


「…………」


 反論もせずホーンドの顔が歪んでぴくついている。


「キュミリアに協力し……そして亡くなったモーダメルも採用を担当したのはお主だったな。あぁ、前任のものに窃盗の疑いをかけたのもホーンド、お前さんだ」


 直接の襲撃犯はキュミリアである。

 けれどもキュミリアがアルドルトを襲撃できるような状況を作り出した証拠を集めていくとホーンドに繋がるのだ。


「さて……先ほどの発言も攻撃もある。どう言い訳する?」


「くそっ……!」


 もはや言い逃れはできない。

 早くこの場から逃げねばとホーンドは杖を振る。


 杖から放たれた魔力が集まり、10本の火の槍が空中に出来上がる。


「それが答えか」


 アルドルトが杖を床に打ち付ける。

 アルドルトの方が遅れて魔法を使ったのに火の槍が出来るタイミングは同時だった。


「この……!」


 ホーンドが放った火の槍は一本の狂いもなくアルドルトの火の槍に撃ち落とされる。

 今度は人よりも大きな火球を作り出すがアルドルトも全く同じものを作り出す。


 火球同士がぶつかって熱が広がるけれどアルドルトはまたシールドを張って熱風を防ぎ、身じろぎ一つもしない。


「動くな!」


 アルドルトを見下したような気分になっていたホーンドであるが明らかな実力の差を感じずにはいられなかった。

 勝てないと思わせられたホーンドは最後の手に出ることにした。


 キュミリアの頭に杖を突き付ける。

 ホーンドはキュミリアとアルドルトの関係を知っていた。


 ホーンドはキュミリアを元より殺すつもりであったけれどアルドルトにとっては大切な孫に違いないと思った。

 キュミリアを人質にしつつ窮地を脱し、あわよくばキュミリアとアルドルトの両方を処分できればと考えた。


「いいのか? 動けばせっかく会えたあんたの孫の頭が吹き飛ぶぞ」


 最後の最後に役立ってくれたものだとホーンドは笑う。

 少なくともキュミリアを人質にすれば逃げることはできるだろうと算段を組み立てる。


 襲撃はしたもののアルドルトがキュミリアを見捨てるはずがない。


「お主はとことん落ちたものじゃな」


 仮にも子を導く立場にあったもの。

 それなのに追い詰められて教え子に杖を向けて脅すなど言語道断。


「な、なんだその目は!」


 怒りのこもった目で見られてホーンドはたじろぐ。

 人質を得て有利なはずなのにホーンドは追い詰められたような感覚から抜け出せていないでいた。


「もうよいぞ、カールソン」


「……分かりました」


「なに?」


 次の瞬間ボキリと硬いものが折れる音がした。

 振り返るとキュミリアがホーンドの杖を掴んで真っ二つにへし折っていた。


「な……これをなんだと……」


 ホーンドが持っているのも決して安い杖ではない。

 高価な素材を使ったかなり価値も高い杖なのである。


 もちろん折ろうとしたところで簡単に折れるものでもない。

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