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一つ未来を変えられた2

「……アリア、今回のことは助けられたな」


「師匠をお助けするのも弟子の役目ですから」


「まさかワシの至らぬ過去がこのような形で牙をむくとは思っておらなんだ」


「一体何があったのですか? 差し支えなければ教えていただければと思いますわ」


「…………全てワシが悪いのだ」


 オーラユーザーと魔法使いは互いに反目し合っている。

 程度も人によるのだが中には相当に嫌悪している人もいる。


 その昔、アルドルトは魔法の世界において将来を期待されている魔法使いだった。

 オーラユーザーになど負けず、魔法の方が優れているのだと考えてオーラユーザーのことをひどく嫌っていたのである。


 そんなアルドルトも好きになった人がいて、結婚して、子をもうけた。

 レムソーダである。

 

 可愛らしい娘で妻も魔法使いだったのでその子供も魔法使いになった。

 そして大きくなったレムソーダはある時恋に落ちた。

 

 アカデミーに同じく通っていた男性でたまたま卒業後何年か経ってから再開することがあったのである。

 それがカイト・アドゥスケスだった。

 

 レムソーダだけでなくカイトも恋に落ちた。

 しかし運命とは残酷なものでカイトはオーラユーザーだったのだ。


 オーラユーザーを毛嫌いしていたアルドルトはレムソーダとカイトが付き合うことにすら反対した。

 アドゥスケスもオーラユーザーを何人か輩出している家系であり魔法使いを嫌っていたので向こうも同じであった。


 けれどレムソーダとカイトはこっそりと逢瀬を重ね、そして結婚しようと2人は心に誓い合った。

 それにアルドルトもアドゥスケスも激怒して認めなかった。


「そうしてレミは……家を出た。カイトと手を取り合い、2人のことを知らない地に向かったのだ……」


 語るアルドルトの声には後悔がにじむ。


「最初は怒りが大きかったカイトと別れるまでは顔も見たくないと思った。けれど娘は娘だ。愛てしてはいたし会いたかった。だから探しもした」


 けれど魔法使いとオーラユーザーのコンビを探し出すことは簡単ではなかった。

 2人も痕跡を残さぬように隠れてしまってアルドルトには探しきれなかった。


 もしかしたら見つけてしまうことをどこかで恐れていて探し出せなかったのかもしれない。


「そうしているうちに色々な経験して、色々な考えに触れてオーラユーザーをただ毛嫌いしている自分が恥ずかしくなった……」


 強い偏見を持っていたがなんの根拠もなく周りに流されるままに嫌っていたのだとアルドルトは痛感した。

 同時に深い後悔の念に苛まれた。


 レムソーダとカイトの結婚をどうして認められなかったのかとただ取り返しのつかないことをした後悔がアルドルトにはあったのである。


「キュミリアを近くで見た時にレミを思い出した……あの子の顔には母親の面影がある」


 だからキュミリアのことを調べた。

 アドゥスケスの養子であることはすぐに調べがついた。


 なぜ養子を取ったのかも簡単に調べることができた。

 そのためにキュミリアが自分の孫であるかもしれないことはとっくに知っていたのである。


 だが話しかける勇気もないまま時間だけが経っていった。

 もしかしたらこのまま関わらない方がいいのかもしれないとすら思っていた。


「悪しき宗教に手を出して、復讐をしようとしていただなんて想像もしていなかった」


 キュミリアに刺された時も本当はすぐに反撃もできた。

 けれどその痛みや復讐を受け入れることも罪の償いだという考えが頭をよぎって結局何もできないまま捕まってしまった。


「全て半端にしたままのワシのせいだ……アリア、迷惑をかけたな」


 アルドルトの目から涙が一筋こぼれた。

 どこかの瞬間で決断していたら何かが変わったかもしれない。


 結婚を許していたら、最後までレムソーダの行方を探していたら、勇気を出してキュミリアに先に声をかけていたら、あるいはキュミリアに刺された時にしっかりとキュミリアを止めてやっていれば。

 考えても仕方のないことばかりがアルドルトの後悔を膨れ上がらせる。


「……悪いと思うならこちらにお座りください」


 アリアはポンと自分の隣のベッドを叩く。

 アルドルトは大人しくアリアの隣に座って悲しげな色をたたえる目でアリアのことを見つめる。


「師匠」


 アリアはおもむろにアルドルトのことを抱きしめた。

 優しい抱擁にアルドルトは驚いたような顔をする。


「過去は変えられません。ですが未来は変えられますわ。キュミリアのやってしまったことは変えられませんけれどキュミリアのような人を増やさないことはできますわ」


「そうだろうか……」


「現に私がおりますわ。オーラユーザーであり、魔法使いでもあります」


 未だにオーラユーザーと魔法使いの仲は悪い。

 けれど一生そのままだなんて諦めずに互いに歩み寄ることはできるはずなのだ。


 アルドルトは権威あるアカデミーの学長なのだ。

 今からでも若い魔法使いと若いオーラユーザーに手を取り合うことを教えても遅くはない。


「それに悪いのは師匠でもキュミリアでもありませんわ」


「ならば……」


「悪いのはキュミリアの心の隙に付け込んでキュミリアを使い捨てのコマにしようとしたらケルフィリア教ですわ」


「……確かにキュミリアが持っていたもの、それにあの不思議な力は人の領域を越えている」


「ケルフィリア教がキュミリアに何かを吹き込んで復讐を煽ったのです。今もどこかでケルフィリア教は同じように人を狂わせようとしているはずですわ」


「……時折お前さんが何かと戦っているように見えることがあったが、それがケルフィリア教なのか?」


「そうです。私も両親をケルフィリア教に奪われました」


「なんと……! 残酷なことをする……」


「2度と悲しみを生み出さないためにもケルフィリア教は滅ぶべきですわ」


「……そうだな。ここまでするとは流石のワシも許せんわい。ふふふ、ありがとうな、アリア。こうしてワシを気遣って、落ち込まないように目的まで与えようとしてくれて」


 アルドルトは穏やかに笑うとアリアの頭を撫でるように手を回した。


「私にはお爺ちゃんもいませんので、もう師匠は私のお爺ちゃんみたいなものですわ」


「ふっふっふっ、嬉しいことを言ってくれる孫が出来て喜ばしいことだ」


 正直アリアはアルドルトのことは結構好きだ。

 だからこうして救えてよかったと思う。


 アリアの働きでケルフィリア教に対する大きな味方を作ることもできた。

 穏やかな笑顔の裏でアルドルトもケルフィリア教に対する怒りを抱え始めたのであった。

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