一つ未来を変えられた1
前代未聞の事件が起きた。
生徒が学長を襲撃した。
さらには邪悪な神のアーティファクトを使ったというのだから大問題である。
しかし生徒たちにはそのことは伝えられないまま教員の間だけで話は止められた。
アリアの忠告もあってキュミリアは治療もされながら拘束されことになった。
アルドルトもキュミリアもかなり危険な状態であったのだが迅速な治療のおかげで一命を取り留めた。
アルドルトの発言もあって今回の件についてキュミリアが犯人だと断定された。
アリアたちもいたので誤魔化しようもなく正直にキュミリアに襲われたことを証言するしかなかったのである。
「アリア嬢……」
「ジェーン、もう休みなさいな」
「ですが……」
肝心のアリアはもう3日も目を覚ましていなかった。
全てを出し切って戦った。
まだまだ未熟なアリアにとってその負担は大きく、未だに眠りから目覚めていなかったのである。
アリアが寝ているベッドの横にはジェーンがいた。
アリアを見極めようなどと軽い気持ちでついていって足手まといになってしまった。
最後には戦う決意はしたけれどアリアが抱えているだろう大きな責任の一端を見たジェーンは複雑な感情を飲み込めないでいた。
もう半ばジェーンの意思は決まっている。
だからこそちゃんとアリアが無事に目覚め、ちゃんと話し合うまではアリアの側を離れないでいるつもりだった。
いつアリアが起きてもいいようにジェーンは寝てもいない。
同じくヘカトケイもアリアの側にいるのだけどジェーンの頑なさにため息をついた。
「んん……」
「アリア嬢!」
「あら……ここは?」
「せ、先生を呼んできます!」
この場合の先生とはお医者様の先生のことである。
ジェーンは慌てて病室を飛び出して医者を呼びに行く。
「起きたかい、バカ弟子」
「バカとはなんですの?」
「こんな風に寝転げてバカと言わずどうするんだい?」
「褒めてくださればいいのですわ……頑張ったのですから」
何が起きたのか最後の方は記憶が曖昧であるが生きているということから考えるにアリアの勝利ではあるのだろうと思った。
「どうなったのですか?」
「キュミリアとかいうガキは捕われてるよ。死にかけていたけどなんとか生きているみたいだね。モーダメルとかいう女は死んだ」
オーラユーザーでもなければ普段から体を鍛えている人でもないモーダメルがケルフィリア教の力で無理矢理オーラを使った。
かなり体に負担がかかっていたことであろう。
その上キュミリアの体から出てきたモヤが爆発した時には無防備にそれを受けた。
助かる見込みがないことはアリアも分かっていた。
「他の方は?」
「みんな生きてるさ。アルドルトもカールソンもジェーンもね」
「……よかった」
「よかないさ! また無茶をして!」
「うっ……ですが師匠もいなかったですししょうがないじゃないですか」
「師より先に行く弟子なんてあってはならないんだよ」
「残念ながら死んでおりませんわ。それにまだまだ死ぬつもりもないですわ」
「……ふぅ」
ニヤリと笑うアリアにヘカトケイは盛大にため息をついた。
「まあ今回はよくやったよ」
これ以上何を言ってもアリアは反省しなさそうだ。
ヘカトケイは小言を言うのを諦めてベッドの横にあるイスに腰掛けた。
「でも本当に危ないところでしたわ」
アリアはヘカトケイから視線を外して天井の方を見る。
『オーラのレベルが上がりました。
オーラレベル4→5』
『剣術のレベルが上がりました。
剣術レベル10→12』
別に天井を見ているのではない。
激しい戦闘を経験したためなのかいくつかのスキルのレベルが上がっていた。
上がりにくくなっていた剣術やオーラのレベルまで上がっている。
サラッと何が上がったのか確認してアリアは表示を消す。
「アリア嬢! ……ああ、よかった!」
「ジェーン先輩?」
ジェーンが人を呼んで戻ってきた。
完全に目が覚めたアリアを見て安心したように大きく息を吐き出した。
「ジェーン先輩もご無事なようで」
「ご無事なようで、じゃないですよ!」
「これこれ……病室で大きな声を出すものじゃない」
「師匠!」
「うむ、起き上がらずともよい。病み上がりの弟子に礼儀など求めやせん」
ジェーンに続いてアルドルト、そして医者の女性も入ってきた。
アルドルトが起きあがろうとしたアリアを手で制する。
病み上がりなのはアルドルトも同じでやや顔色は悪いが黒いモヤに捕らえられていた時の顔色に比べれば遥かにマシである。
医者の女性がアリアの脈を取ったりと体の様子を診察する。
アリア自身は体の中にあるオーラがまだ回復しきってはいないけれどもう体そのものは大丈夫そうだと思っていた。
「もう大丈夫ですね。もう1日ぐらい様子を見て平気そうなら退院してもいいでしょう。
さすがオーラユーザーですね。体の回復も早いです」
「ええ、ありがとうございます、先生」
「それでは私は失礼します。何かありましたらいつでも呼んでください」
最悪アルドルトがいれば大丈夫だろうと医者の女性は部屋を出て行く。