闇に堕ちた孫3
「……やあ。アリア、カールソン……そしてジェーンまで。どうしてここにいるんだい?」
「そのお言葉そのままお返しいたしますわ!」
「……僕がここにいる理由かい? それは復讐のためさ。僕の母親を……自分の娘を見殺しにしたクソジジイを殺しに来たんだよ!」
キュミリアの目はすでに狂気に飲み込まれつつある。
「キュミリア……どうして」
異常なキュミリアの様子に中でもショックを受けているのはジェーンだった。
当然だろう。
これまで見たこともないような目をしていて学園長のことをクソジジイと呼んで殺すとまで叫んでいる。
密かに思いを寄せていた相手が狂ったような姿でいるのだからショックを受けても仕方がない。
「どうしてだと? こいつのせいで僕の親は苦しんだ! くだらない偏見と意地のせいで母さんと父さんは家を追い出されて……僕は1人になったんだ!」
「だからってそんな!」
「うるさい! お前に何が分かる! 父さんが死んで……母さんも病気で弱っていく……そのくせ僕は何も出来なくて、誰も助けてくれなくて。
オーラユーザーになるかもしれないからと勝手に期待をかけて僕を引き取っておきながらオーラが使えないと見下すあの家もクズだ!」
ジェーンはキュミリアの言葉に息を飲む。
普段は穏やかなキュミリアの激情。
過去に何があったらこんなことになるのかジェーンには理解できない。
同じ年にアカデミーに入り、同じくユーケーンに入って切磋琢磨してきた。
知っているはずのキュミリアが急激に知らない人になってしまったようでジェーンの顔から血の気が引く。
「邪魔をするな! 僕にやらなきゃいけないことがあるんだ!」
「させませんわ!」
キュミリアが剣を抜いた。
アリアはアルドルトに手を出させまいと魔法を使う。
氷を生み出してキュミリアに向けて放つ。
この際キュミリアを無事に捕らえようなどとは考えていない。
まずはアルドルトを助け出すことが最優先になる。
「なっ……!」
アルドルトを包み込んでいた黒いモヤがキュミリアを包み込んで守る。
魔法が黒いモヤの中に吸い込まれるように消えていってアリアは思わず驚いてしまう。
「ふーん……どうしてこのクソジジイの側に君が多くいるのかと思ったら魔法を習っていたのか」
黒いモヤの向こうからキュミリアがアリアを睨みつける。
やたらとアルドルト周りで会うことがあるなと思っていたのはキュミリアの方も同じだった。
アリアがアルドルトから魔法を習っていたためだと考えると辻褄が合うと納得した。
「ジェーン先輩!」
「えっ……」
「ごめんなさい!」
アリアはジェーンのお腹を押すように蹴り飛ばした。
「チッ!」
「あなたはモーダメル……!」
いつの間にかモーダメルが学長室に入ってきていた。
ナイフを振り上げてジェーンを刺そうとしていたのでアリアはとっさにジェーンを蹴り押したのである。
ナイフが空を切ってモーダメルは盛大に舌打ちをした。
可能性としては考えていた。
やはりキュミリアとモーダメルはつながっていたようである。
「アリア、後ろだ!」
アリアの後ろに黒いモヤが迫っていた。
カールソンが白いオーラをまとわせた剣で黒いモヤを切り裂いて払う。
「助かりましたわ!」
「……僕はどうしたらいい?」
未だに状況が掴みきれていないカールソン。
けれどキュミリアとモーダメルが敵で、状況が良くないことだけは分かる。
「モーダメルをお願いいたしますわ。あなたならすぐに制圧できるでしょう?」
「信頼してくれて嬉しいよ。任せてくれ」
モーダメルはオーラユーザーでもない。
ただの掃除のおばちゃんであることは確実なのでカールソンなら倒すことは難しくない。
先に潰してキュミリアに集中しようと思った。
「ジェーン先輩! 動いてください!」
ただ危惧していた通りにジェーンはキュミリアの暴挙にショックを受けて茫然自失な状態になっていた。
「で、でも……」
「はっ! ここは戦場ですよ! 地面にへたり込んでいる暇なんてありません!」
アリアは黒いモヤを紅いオーラをまとった剣で切り裂く。
魔法は通じないようだがオーラをまとった剣は黒いモヤを切り裂くことができるようだった。
黒いモヤが何なのか分からない以上は触れるのも危険。
アリアはジェーンを守るように黒いモヤを切り裂くけれど次々と生み出される黒いモヤはいくら切り裂いてもキリがない。
「キュミリア……どうして……」
「んなもんいいから戦うか戦わないかさっさとお決めになられてください!」
いつまでもウジウジとしているジェーンにアリアがキレた。
ある程度こんな風になることは予想していたけれどキュミリアが取ってきた戦法の方が予想外すぎて余裕がない。
「ふん……どうしてそんな女を連れてきたんだ? そんなオーラしか能のないような女を」
その様子を見ていたキュミリアが鼻で笑う。
邪魔になるような者を連れてきた理由が理解できない。
たとえオーラが使えるのだとしても戦いを前にしてへたり込んでいるようならそこらの一般人とも変わらない。
「なっ……キュミリア、こんなことやめて!」
キュミリアの言葉にグサリときながらもジェーンは説得を試みる。
ジェーンの知っているキュミリアならこんなことはしない。
何かがあってこんなことをしているのだとしてもきっと止められると考えていた。