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違和感が鳴らす警鐘1

 晴れぬモヤモヤはあったけれどそれで悩んでも仕方がない。

 思い出せないことを無理に思い出そうして思い出せることなどない。


 自然に任せて思い出す時を待つしかないのである。

 アルドルトによるとミチュトの夫はそれほど重たい症状でもなく快方に向かっているらしい。


 ミチュトがいない期間はそう長くもならなそうである。

 今日はアルドルトも忙しいらしくて魔法の授業はない。


 なのでアリアはユーケーンを訪れた。

 ヘカトケイにオーラの修行をつけてもらうつもりであった。


 ユーケーンには大体誰かしらいる。

 暇さえあれば剣の素振りをしているような真面目な人もいたりトレーニングルームで体を鍛えている人もいる。


 授業の後半の時間帯になればもうその日のスケジュールが終わってユーケーンに人も集まり始める。


「はっ!」


「ちぃ! どうだ!」


 ユーケーンにつくとカールソンとジェーンが手合わせをしていた。

 鋭利で冷静なカールソンの剣をジェーンが受け止めて反撃を繰り出すがカールソンもジェーンの剣をしっかりと防いでいる。


 ノラとの戦いでもカールソンの剣術を見たがまだまだノラのレベルはカールソンに及んでおらず実力を出しきれずに終わった。

 一方でジェーンは剣術のレベルも高い。


 アリアもまともにジェーンと戦っていたら決して勝てなかった。

 カールソンはそんなジェーンにも劣らず剣を交えている。


 むしろ押しているぐらいである。

 ここに加えて2人ともオーラを扱えるというのだから末恐ろしい。


「うっ!」


「ははっ! 私の勝ちだな!」


「負けました」


 隙とも言えないような隙だった。

 それをジェーンがこじ開けるように攻め立てて完全な隙にした。


 首に剣を突きつけられてカールソンは大人しく剣を持った手を下ろす。

 見ているだけでも参考になる。


 自分も体を動かしたくなるような熱が2人の戦いにはあった。


「お疲れ様です」


「あっ、見ていたのか……」


 戦いが終わってようやくカールソンはアリアがいたことに気がついた。

 負けた情けない姿を見られてしまった。


 見られていると知っていたならもっと気合いを入れて良いところを見せたのにと思わざるを得ない。


「はい、ジェーン先輩」


「ありがとう」


 アリアはジェーンのタオルを取って渡してあげる。

 あの日のお誘いの返事は未だに聞けていないけれどジェーンのアリアに対する態度はほとんど変わらなかった。


 そうしたところも好ましく、余計に来てくれないかなと思ってしまう。


「さすがですね」


「まだまだよ。押される場面も多くてもっと改善していかないと」


 さらにジェーンは努力を怠らない。

 一戦一戦から何か得られるものをしっかり吸収しようとしている。


「ヘカトケイ先生はいらっしゃらないのですか?」


 いつもならジェーンはヘカトケイに指導を受けているはず。

 なのに今日に限っては珍しくカールソンと手合わせをしている。


 キョロキョロと見回してみるがヘカトケイの姿はない。

 ユーケーンのクラブハウスの中にもヘカトケイはいなかった。


「ヘカトケイ先生なら外に出ているらしいですよ」


「外ですか?」


「ええ、アカデミーの外」


 なぜヘカトケイがアカデミーの外に出ることがあるのか疑問に思ってアリアは首を傾げた。

 基本的に教師であってもアカデミーの期間中はアカデミーの外に出ることはなく、ヘカトケイはさらに街に用事などあるわけもない。


 アカデミーの外に出るとしても何もない時。

 つまりはジェーンやアリアなどが来ないと思われる時に用事を済ませるはずだろう。


「私もヘカトケイ先生に教えてほしかったのですけどね」


「何があって外出してあるのかはご存じで?」


「私は聞いていないですね」


「どうやら外で魔物が現れたらしいんだ」


 ジェーンも理由まで知らない。

 アリアとジェーンの会話にカールソンが入ってきた。


「どういうことですの、カールソン?」


「アカデミーがある街の外の森に魔物が現れたらしいんだ。この街にはアカデミーがあるからね。生徒を危険にさらさないようにアカデミーの先生たちも何人か魔物の調査に向かったらしいんだ」


「そうなんですか」


 この街にも自衛のための戦力などはある。

 しかしアカデミーを守るためにアカデミーの迅速な対応も求められる。


 剣や魔法の授業もやっているのだから当然に戦える先生たちもいる。

 そのために問題が起きればアカデミーの教員が動員されることもあるのだ。


 今回はユーケーンの顧問である教員と特別顧問であるヘカトケイも魔物の調査、討伐のために外に出ていたのである。


「魔物……」


「アリア、どうかしたのかい?」


 ぼんやりと床を見つめるアリアの顔をカールソンが覗き込む。

 アリアはなぜか魔物という言葉が頭に引っかかっていた。


「魔物……アドゥスケス……そうだ!」


 急に思い出した。

 アドゥスケスという家名をどこで見たのか。


 回帰前アルドルトの心臓が抜き取られた後の数年後に起こる魔物の大量発生事件の時にその名前を見たのだ。

 魔物を呼び出した魔法陣が発見され、家人が全て死に絶えた家がアドゥスケスであった。

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