悪い女、引き抜きをかける1
顧問の先生はオーラユーザーではない。
騎士団の部隊長にまで上り詰めた人で優秀な剣士であるがオーラが扱えない以上はオーラは教えられない。
基礎的なことはアドバイス出来てもそれだけなのである。
一方でヘカトケイはオーラユーザーである。
そのためにヘカトケイはオーラユーザーの子を中心に教えることになった。
といってもオーラユーザーであるのアリアを除けばジェーンとカールソン、それともう1人の生徒だけである。
「どうですか?」
「つ、強いですね」
ただオーラユーザーであるというだけで相手を認めて従うかといえばそうではない。
努力もしないオーラユーザーと努力する一般人ならば一般人の方が強いことだってある。
オーラユーザーであるからオーラの先生として認めるかもまた別問題なのである。
ならばどうするか。
実力を見せる。
先生としてふさわしい力があるとしっかり見せて認めさせることもまた大切なのである。
これもまた強さの世界に生きるものの性のようなものなのだ。
ノラやエーキュなどの新たな入会者を加えて、顧問の先生も戻ってきて歓迎会を行なって数日後ジェーンはヘカトケイに呼び出された。
真剣を渡されて3本勝負だといきなり試合が始まった。
1本目は訳がわからないままに押し切られた。
戦いになった時に状況を理解してくれる時間を相手が与えてくれると思うのか?とヘカトケイに言われてジェーンも目が覚めた。
2本目はジェーンからも攻めた。
オーラも使っていいと言われたがジェーンはオーラすら使わないヘカトケイに負けてしまった。
そして3本目の戦いはもう戦いなどではなかった。
ヘカトケイもオーラを使い始めて、ジェーンは何も出来なかった。
真剣が細切れになり恐怖すら感じた。
圧倒的な実力。
それを身をもって叩き込まれた。
アリアはヘカトケイとジェーンの戦いを見ていた。
ヘカトケイが剣を鞘に納めて床に汗だくでへたり込んだジェーンのところにタオルを持っていく。
「ありがとう……」
ジェーンはタオルを受け取って汗を拭く。
体を動かした汗もあるけれど殺気にも似たような強いオーラの圧力に当てられて冷や汗もかいていた。
「まだまだだね」
力の差がありすぎる。
けれどジェーンは胸の高鳴りを抑えられなかった。
剣を極め、オーラを極めると女性でもここまで強くなれるのだと感動を感じている。
「次はアリアだね」
「はい」
「えっ……ですが」
「今ここにいるのは私と師匠とジェーン先輩だけです。
私の秘密、少しだけ教えて差し上げますわ」
「ア、アリア……」
剣を抜いたアリアの体を真紅のオーラが包み込む。
単に放出するようにオーラをまとっていたジェーンと違い、アリアは指の先までピタリと均一にオーラを留めている。
時には放出した方が勢いが出て強いこともあるがオーラは放出するものではなくしっかりとまとうものなのである。
「それではいきます」
「いつでも来るといい」
「はっ!」
速いとジェーンは思った。
床を蹴ったアリアは一瞬でヘカトケイとの距離を詰めて剣を振る。
剣も先端まで紅いオーラがまとわれていて触れたもの全てを切り裂きそうな鋭い雰囲気を放っている。
ヘカトケイが剣を抜いてアリアの剣を弾き返す。
こちらも剣にオーラをまとっていてオーラ同士がぶつかって火花にも似た白い光が散った。
アリアは弾き返されることも予想していて力に逆らわなかった。
弾き返された力を利用してグルリと一回転してそのまま剣を横薙ぎに振るう。
「ふふ、少し成長したようだね?」
「ジェーン先輩が付き合ってくださるからですわ」
胴を目がけたアリアの一撃をヘカトケイは軽々と受け止めていた。
ジェーンは思わずその戦いに見入ってしまう。
アリアよりもジェーンの方が強い。
けれどオーラを使った上での戦いは全く異なっていた。
アリアの剣のステージが1つも2つも変わるほどオーラによってアリアは強くなっていた。
攻め立てるアリアの剣をヘカトケイは笑って防ぐ。
サボっていたわけではないとちゃんと剣を受けてみて分かる。
「くっ!」
「うん……ここは良い刺激になっているようだね」
強く切り返されてアリアの手から剣が飛んでいく。
アリアは勝てないなどと考えず今日こそはといつも思いながら戦っている。
しかし今日も勝てなかった。
でもいつかヘカトケイも超えてみせると強く思っていた。
「これが私の秘密ですわ、ジェーン先輩」
「すごいです……」
興奮が抑えられない目をしているジェーン。
ヘカトケイもすごいがアリアもすごい。
正直ヘカトケイを見ているだけではその極致までの道のりは想像し難かった。
けれどアリアを見てしかとオーラの鍛錬を積んでいけば強くなれるビジョンがより鮮明になった気がした。
「だけど……どうしてオーラを」
「乙女に切り札は必要でしょう?」
アリアはウインクしてみせる。
オーラは強力な武器であるが同時に周りの注目を集めたり警戒される要因となってしまう。
知られず隠しておけるならその方がいいという考えも当然にあるのだ。
「ジェーン先輩にだけ教えて差し上げる私の秘密ですわ」
「それに……ヘカトケイ先生も知ってるようだったし……」
「師匠は私の師匠ですからね」
「へっ?」
「普段はエルダンにいてアリアを教えてるんだよ」
「えーっ!?」
驚きもあったが羨ましいとジェーンは思った。
このような師に教えてもらえるアリアが羨ましい。