ちょっとお休み、外出日2
馬車が向かった先はエルダンの別邸。
「アリア!」
屋敷に着いたらゴラックが出てきて迎えてくれた。
「おじ様」
馬車から降りたアリアをゴラックが抱きしめる。
少し驚いたけれどアリアもゴラックを抱きしめ返す。
回帰前ならあり得なかったことであるが今はほんの少しだけ素直に受け入れられる。
まさか出迎えて抱擁までしてくれるなんて思わなかったけど悪い気分じゃない。
「元気そうで何よりだ」
「おじ様こそお元気そうですね」
回帰前では最後体調を崩して亡くなったゴラックであるがこの時期ではまだまだ健在である。
知っている世界とは変わり始めている気はしなくもないがゴラックの体調は変わらない。
「朝は食べたか?」
「いいえ、まだ食べていませんわ」
「なら一緒にどうか?」
みんな気をきかせてくれた。
アリアが事前に外出日を別邸の方に知らせるとレンドンが本邸の方にアリアのことを知らせた。
護衛などの都合があるので外出日に関する連絡は許されているのだ。
そしてゴラックは慌てて別邸の方に来ることになって朝食でも共にしないかと護衛の連絡にかまけてアリアの方にも事前に話があった。
ということでアリアはちゃんと朝食は食べずにきた。
「アカデミーの生活はどうだ?
不便なことはないか?」
2人じゃとても食べきれる量じゃない料理がテーブルに並べられている。
別邸の料理長もアリアたちが食べるということで特別気合を入れていたようだ。
「ええ、アカデミーは楽しいですわ」
「友達はできたか?」
「はい、色々な人と仲良くさせていただいていますわ。
ですが今1番仲良くしていただいているのはカンバーレンドのお茶会で出会ったスキャナーズさんとヘヴィアナドさんですわ」
「スキャナーズ……南方の商人か。
あまり交流はないが良い話を聞く家門だ。
ヘヴィアナドは聞いたことがないがアリアが選んだ友達ならば心配ないだろう」
もちろん友達としてパメラとトゥージュ以外の人たちとも交流は持ち始めている。
けれどやっぱりパメラとトゥージュといる時間は長い。
今日も出かけるわけであるし。
「手紙ではユーケーンに合格したと聞いた」
「ええ、お兄様たちの推薦もあって」
「……推薦で入れるところではない。
私もユーケーンの出だからな」
「そうなのですか?」
「ああ、ユーケーンの中では下の方であったがな」
ゴラックは穏やかに笑っている。
「アリアの努力が身を結んだのだな。
兄もユーケーンだったのだぞ」
「父上が」
むしろアリアの父であるイェーガーがユーケーンだったから憧れてゴラックもユーケーンに挑戦した。
なんとか入ることはできたけれど実力として下の方だったゴラックにとっては大変だった。
その甲斐はあって剣の実力も向上したので今考えるとよかったと言えるけれど。
「人脈としても、自分を成長させる環境としても良いところだ。
キツイこともあるが……辛くなったらやめても良いのだしな」
何もユーケーンにしがみつくばかりが全てではない。
辛いならユーケーンを抜けてしまうことも全然構わないのだ。
「そういえばおば様や師匠はどうなさっていますか?」
「姉さんは家に帰った後も相変わらずやっているようだがアリアに会えなくて寂しいと手紙に書いていたぞ」
「私もおば様が恋しく思いますわ」
なんだかんだでメリンダはアリアの良き理解者だった。
カラッとした性格も好きで目標とすべき出来る女性だった。
メリンダも結婚していて家があるので帰っていったがまたぜひ会いたいものである。
今度は機会があればメリンダの家に訪れてみたいものだ。
「師匠はどうですか?」
この師匠とはアルドルトのことではない。
オーラの師匠であるヘカトケイのことである。
アリアがいなければヘカトケイはすることがない。
大人しくしているとも思えない。
どうしているのかメリンダの方よりも気になる。
「……実はな」
「何かあったのですか?」
「分からないのだ」
「分からない……ですか?」
「元々こちらに配慮する人でもない。
少し前にふらりといなくなったきりどこに行ったのか分からないのだ」
悩ましげな表情を浮かべるゴラック。
ヘカトケイはアリアがアカデミーに行った後失踪していた。
特別監視していたのでもゴラックが交流していたのでもないのでメリンダの出入りは自由である。
気づいたらいなくなっていてどこに行ったのか一切分からないでいた。
実力者なのでどこに行こうと平気だろうが行き先ぐらい明かして欲しかったものだとゴラックは思う。
きっとアリアがアカデミーから戻る頃にヘカトケイも戻るはずだから心配はしていない。
「そうなのですか……」
そうしたことがあるかもしれないということはアリアも予想していた。
教えるべきアリアがいないのにエルダン家に留まっている必要などない。
またどこかでケルフィリア教の拠点でも襲っているのかもしれないと軽く考えておく。
「まあ師匠のことですからどこかで元気にやっていることと思います」
「そうだろうな」
その後ものんびりと食事を続けながら手紙では伝えられないようなことを話す。
少しだけ親子の会話みたいだなとアリアも思った。