悪のやり方、子を救う6
シェカルテにはアリアが何をしているのかよく分からない。
けれど歯を食いしばり赤いオーラを放出し続けるアリアと同じく苦しそうな顔をしながらも目をつぶって集中しているカインを見れば、2人が必死になって何かを成そうとしていることは分かる。
「あのー、まだお時間……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
いつまで経っても出てこないアリアたちに痺れを切らしてイングラッドが部屋に入ってこようとした。
シェカルテはとっさに開きかけたドアを押さえた。
「グェッ!
な、なんですか!?」
イングラッドの腕がドアに挟まれる。
「ノックもしないで勝手に入るのはダメですよ!」
この状況を見られてもいいものかシェカルテには判断がつかない。
なんとなく見られちゃいけないものかもしれないと思ったのだ。
「痛い痛い!
分かりましたから!
腕挟まってますから!」
「か、勝手に覗かないでくださいね!」
シェカルテが少し力を抜いた隙にイングラッドは腕を引き抜く。
確かに他人の部屋にノックも無しに入ろうとしたのはいけないのかもしれないが今更な話だろうと腕をさすりながら思う。
「そうですわ……いい感じ……」
ドアをバタンと閉めて体で押さえるようにして振り返るとアリアとカインは同じ体勢、同じ表情のまま見えない何かと戦っていた。
カインの体の中では確実な変化が起こっていた。
捉えどころがなく、自分の体にあるのに自分のものではなかったようなエネルギーが段々と自分のものになっていく。
体の外に飛び出そうとしていた動きをアリアのオーラに従って動かしていくとカインの体の中をエネルギーが巡回し始めた。
体全体を巡って、そしてお腹の奥に帰ってくる。
「そう、それが基本……ですわ」
ポタリと、血が、垂れた。
アリアは忘れていた。
回帰して子供の体になり、しかもオーラを扱えたので調子が良かった。
死ぬ直前は体が弱っていたので今の体は非常にいい感じであると感じていた。
しかし元々アリアは体が弱かった。
回帰前の小さい頃は簡単に体調を崩し激しい運動をすると熱も出していた。
オーラを使い、体力を使い。
アリアは知らず知らずのうちに限界を超えてしまっていた。
「あっ……」
鼻から血が垂れている。
ドロリとした生温かい血に触れた瞬間一気に体の状態を自覚した。
世界がグルリと回転した。
そして急激に視界が白くなっていき、アリアの意識はブラックアウトした。
「お姉……さん」
そしてカインも同じく気を失った。
「せ、先生!」
シェカルテが慌ててイングラッドを呼ぶ。
「どうしました……何があったのですか!」
部屋に入ると鼻血を出してアリアがベッドに突っ伏して倒れている。
そしてカインの方も気を失っているのだがその顔は穏やかで呼吸も落ち着いている。
一体中で何が起きていたのか。
アリアの体は熱く、呼吸も荒い。
まるでアリアとカインの体の状態が入れ替わったようであった。
アリアをちゃんと寝かさねばならない。
イングラッドはアリアをシェカルテの部屋に移してベッドに寝かせる。
熱を下げるために解熱剤を飲ませてはみたがアリアがなぜ突然体調を崩すことになったのかイングラッドにも分からない。
医者としての自信を打ち砕かれたような気分であった。
一通りアリアの診療を済ませてもはや手を出せることもないイングラッドはカインの方の様子も見た。
寝ているために軽くの診察であったが先ほどまでの不良がウソのようにカインの容態は落ち着いていた。
程なくしてアリアの方も呼吸が落ち着いてきて、薬のおかげか熱も下がって苦しそうな様子ではなくなった。
寝顔を見ると年端も行かぬ少女。
医学的知識があるわけもなく、なんの薬だって持っていないはず。
カインの病気を治すことなんて出来ない。
だけどアリアはカインを快方に向かわせた。
そこで1つ、イングラッドはアリアに対して正体の予想を立てた。
その予想はアリア本人が聞いたら大笑いしそうなものだったがイングラッドはもし本当にそうなら誰にも言ってはならないことだと勝手に秘密を抱える誓いを立てたのだった。