目星2
「アリア嬢も素晴らしい実力の持ち主だけど……1回生は出られない決まりなんだ」
「ジェーン先輩は?」
「ジェーンかい?
もちろん出てくれるなら出て欲しいね」
「ジェーン先輩が出てくださるなら安心ですね」
それにカールソンを始めとしてディージャンやユーラもいる。
この3人も同年代の子に比べると優れた腕前を持っている。
「それで学園長、お時間はありますか?」
「うむ、仕方ないのぅ。
奥の部屋に」
「分かりました」
キュミリアが先ほどホーンドが出てきた会議室に入っていく。
「アリア、済まないが今日はお休みとしよう」
「承知いたしました、師匠」
こうして来客があることはもちろんある。
アリアが素直にうなずくとアルドルトは会議室に向かう。
「失礼します……あら?」
また部屋に人が入ってきた。
カートにほうきや雑巾、バケツなどを乗せて運んでいる年配の女性。
モーダメルという清掃員である。
「会議室を掃除するつもりだったんですけど……」
「ああ、今使用中なのでまた後でお願いできますか?」
「分かりました。
それでは失礼します」
モーダメルはペコリと頭を下げて行ってしまう。
他にも主任教授や生徒会執行部の学生、時には魔塔の魔法使いなどアルドルトをよく訪ねてくる人をアリアはそれとなく聞いたりして調べていた。
知り合いが犯人である。
そうアリアは思っていた。
アルドルトを殺して心臓を奪ったのはきっと顔見知りの犯行である。
アリアはアルドルトに弟子入りして魔法を習ってようやく分かった。
アカデミーには魔法が張り巡らされている。
外部の人間が足を踏み入れればアルドルトには分かる。
穏やかそうに見えてもアルドルトはちゃんとアカデミーの警戒を怠っていないのだ。
魔法を破壊すればそれでもアルドルトには気づかれるしバレないように入ることはほとんど不可能である。
そうなると外部の人間が入ってきたと考えるよりも内部の人間による犯行だと考えた方が自然である。
その中でもアルドルトとよく顔を合わせる人が犯人であると思っている理由はアルドルトの死に様からであった。
学長室のイスに腰掛けたままアルドルトは死んで心臓を取られていた。
ひどく無残な殺し方なのは確かであるが注目すべきはそこではない。
誰もアルドルトの死に気づかなかった。
つまりは戦いなどが起こっていないのである。
アルドルトが抵抗もできないような相手がいるとしたらそいつは今頃世界を手中に収めていることだろう。
だとするとアルドルトが抵抗できないような状況を作り出した。
あまり接点のない人がいきなり訪ねてきて何かしようとすれば気づくはず。
だから何かの策略に嵌めたとしたらある程度アルドルトと関係性を築いた人だ。
だからアルドルトの身の回りの人を調べた。
どんな人がよく周りにいて、会いにくるのか。
怪しそうな人がいるならその人の背景を探る。
事前にケルフィリア教だと分かるのなら排除することも考えていた。
しかし疑いの目を持って調べるとどんな人でも怪しく見えてしまうというもの。
明確に誰が犯人だと分かりもしない。
けれどまだ何人かは目をつけていた。
犯人かどうかも分からないがアルドルトに近づくことができる人たちがいる。
とりあえず目星をつけた人の調査をしなければならない。
「何を考えているのかしら?」
あごに手を当てて考え込むアリアにミチュトが首を傾げた。
「次の外出機会がいつだったかなと思いまして……」
「外出機会?
えーと……10日後ぐらいだったかしら?」