静かなる闘争
授業が本格化してアカデミーの生活も本番となった。
まだ流動的な部分はあるものの、授業が決まりクラブも決まってくると交友関係も決まってくる。
あるいはまだアカデミーの生活の基盤が定まっていない人も少なくはない。
中には友達すらできなかったり上手くグループに入れなかった人もいる。
そうした寂しさにつけ込んだりする連中がいる。
ケルフィリア教である。
そうした孤立した人を見つけて言葉巧みに自分たちの仲間に引き入れようとする。
「3回生のイーダット・ノジアーム」
「間違いないのか?」
「はい。
今回1回生のソキウに接近してきました」
そしてそんな企みを阻止しようとしている組織もある。
聖印騎士団だ。
宗教関係でもケルフィリア教は警戒しているがこうした組織が動くのは基本的に事後であり問題の対処が多い。
対して聖印騎士団は事前にケルフィリア教の目論みを阻止しようと動いている。
フェクターというクラブがある。クラブそのものの規模は小さいがアカデミーの中でも歴史が古く、長いこと存在している社交クラブである。
その正体は聖印騎士団による集まりであった。
正確にいえば聖印騎士団の子息たちの集まりなのである。
中には若くてももう聖印騎士団の正式なメンバーもいるがほとんどがいわゆる聖印騎士団の候補生みたいな立場である。
アリアもこのフェクターに顔を出していた。
正式なフェクターのクラブ員ではないがアリアも聖印騎士団の一員であるので出入りすることは許されていた。
ユーケーンのようにクラブハウスなど持っていないフェクターはクラブ棟と呼ばれる大きな建物の一室をクラブが利用できる部屋として持っている。
そこで話されていたのはケルフィリア教と思われる生徒についてであった。
こちらもどんな生徒が話しかけられやすいかを分かっている。
そのためにそうした生徒を観察したり、あるいは自身がそれを装ったりしてケルフィリア教を探していた。
さらには孤立していそうな生徒に話しかけて他の輪に加わるように誘導したり交友関係を持ったりとサポートなど結構頑張っている。
ケルフィリア教の方は十何年も前にケルフィリア教の生徒で集まったクラブを叩き潰されていたので特定のクラブを持たないでひっそりと活動していた。
「証拠を調べよう
部屋がどこなのか見つけるように」
「承知しました」
実際にケルフィリア教を見つけてどうするのか。
アカデミーの内部で人を消すことなどできない。
殺人や失踪が起これば当然調べられるだろうしその過程で聖印騎士団のことが明るみに出てしまうかもしれない。
無茶なことはやってはダメだ。
平和的に、かつ聖印騎士団が手を下したとバレないようにするために観察騎士団に匿名の密告を送るのである。
その場合はアカデミーにいる子供ではなくその子供の家門ごと密告する。
子供がケルフィリア教だということはほとんどの場合親もケルフィリア教である。
親だけではなく子供の方にも調査が入って子供も拘束されるという寸法だ。
もちろんこの方法では一家丸ごと追いやることになってしまう。
もし間違いであった場合謝罪では済まされない被害を与えてしまうことになる。
なので部屋に侵入したりして確実な証拠を探す必要があるのだ。
「2回生のヘブトアスの部屋にはどうにか侵入出来たのですが証拠のようなものは見つかりませんでした……
非常に怪しいのですが……」
証拠を見つけられない生徒も存在する。
しかし行動などから容疑は濃厚で放っておくこともできないことがたまにはある。
「なら警告文を出そう」
そうした時に取る手段が警告文。
普通の人にはわからない、ケルフィリア教徒にしか分からない言い回しでこっそりと手紙を送りつける。
見つかることを嫌い、警戒心の高いケルフィリア教徒ならそれで自主退学していく。
退学までしなくてもバレないようにケルフィリア教としての活動はしなくなる。
「このような感じでやっています」
フェクターのクラブ長をしているミスラストスという男子生徒が一通りの話し合いを終えてアリアの方を見た。
アリアはすでにユーケーンに加入しているのでフェクターに入ることはできない。
他の聖印騎士団は一度はこのフェクターでの集まりに参加していたアリアは遅い方だった。
今後もあまり積極的には参加できないとは思うがどんな感じなのか把握しておく必要はある。
「非常にまとまりがあって素晴らしいですわ」
「お褒めいただいて光栄です。
聖印騎士団の方からエルダン嬢はすでに団員だとうかがっておりますので何かあれば何でもお申し付けください」
アリアはもう聖印騎士団の団員である。
そのためにほとんどが候補となるフェクターの中では年が下でも上級の存在となるのだ。
「ありがとうございます。
では1つお願いしたいことがありまして……」